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2023年02月12日01:46

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「ミセス・ハリス パリへ行く」(ポール・ギャリコ)

…という本を新聞の書評で見て読みたいと思いました。そもそも「パリへ行く」なんていうタイトルからしてウットリ。もとは1958年に書かれた本ですが、去年映画化されたことで新装版が出たということです。それでネット書店で探してみました。
すぐに見つかったんですが、そこではたと思いました。原書は英語です。だったら英語で読んだらいいんじゃないか。
原書を探したらそれもすぐ見つかりました。
アマゾンは配送やピッキング要員などに過酷な労働を強いているブラック企業なので使いません。洋書は紀伊国屋で探します。発送もすぐでした。原書の表紙は映画の写真になっていました。

ミセス・ハリスは20年前に夫を亡くして以来家政婦として働いています。いくつかの家に通っていて、長年のお馴染みさんもできました。ある時働きに行った家で、クローゼットにとても美しいドレスが2着あるのを見ました。女主人は今夜のパーティーにどちらを着て行こうかしら、なんて悩んでいます。それはディオールのドレスで、パリであつらえたものでした。ミセス・ハリスにとってはまるで縁のないお高いドレスです。
しかし、その日以来ミセス・ハリスはディオールのドレスにすっかり魅せられてしまいました。

なんとかディオールのドレスを手に入れる方法はないか…頭の中はそればかり。どうしてもあきらめることができなくなって、お金を貯めようと思いました。生活を切り詰めながら、3年かけてやっとお金を貯めてついにパリへ行くことに。

ここで注目するべきは、1958年と言う時代です。
このころはまだブランドファッションは「オートクチュール」の時代でした。
つまり顧客の注文によって仕立てるオーダーメイドでした。調べてみますと、1960年代以降にプレタポルテが登場したそうです。プレタポルテとはブランドが作る既製服です。

さらに、このころはまだ「階級」というものが残っていたのですね。ブランドのブティックで服を仕立てることができるのは上流階級の人だけ。間違っても家政婦がブランドのブティックにやってくることはありません。
ミセス・ハリスはディオールのブティックにやってきて、そこにあるドレスを選んで買えばその日のうちにロンドンに戻る飛行機に乗れる…つもりでやってきました。しかしディオールのブティックにはドレスは並んでいません。ドレスはどこ?などと聞いて、お店の人から「お店をお間違いでは」などと言われて追い返されそうになります。それでも「お金なら持ってます!」と言ってなんとかドレスを買おうとする意志を示すと、お店の人も本気なのがわかって、3時からコレクションの発表があるからその時間に来てくださいと言いました。

そうして3時に行くと、お金持ちや偉い人が続々集まってきました。これからドレスを着たモデルが順番に現れるので、欲しいドレスがあれば番号を控えてくださいと紙を渡されました。
あまりにも場違いなミセス・ハリスを見て席を譲れと強要する尊大な客もいましたが、隣の席の初老の紳士がとりなしてくれもしました。

そうしてついにミセス・ハリスはドレスを選びました。
しかしそれで終わりではありません。なにしろオートクチュールです。これから採寸して、顧客の体形に合わせて新しく作るのです。1週間はかかると言います。
ミセス・ハリスは真っ青。1週間も滞在できるお金なんかないー!!

ここからはネタバレになるので何も言えません。
とにかく最後がなかなか衝撃で…。
でも切なくて、なおかつ暖かい気持ちになれるお話です。

パリの描写もいろいろ出てきて、おのぼりさんの見たパリを感じることができます。

原書で読んでおもしろかったのは、ミセス・ハリスの言葉遣いです。ものすごい下町なまりです。例えるなら、「マイ・フェア・レディ」のイライザ。まずHの音が落ちます。全部落ちる。自分の名前も「ミセス・アリス」と発音するぐらい。
表記方法としてはHの代わりにコンマが付きます。'ave(have), 'ere(here)など。
あとは「エイ」という音を「アイ」と発音するのもロンドンの下町なまりの特徴。イライザが「スペインの雨」rain in spainという発音練習をさせられるのも、スパイン、ライン、と発音するから。この本ではa,aiというつづりにyの字を当てていることが多く、これで「アイ」という発音を表しているのだな、と察しました。

ディオールのお店には英語を話せる人がいますが、ミセス・ハリスの言葉を聞いてかなり面食らったかも。

でも、ミセス・ハリスは毅然とした意志を持ち、そしてとてもやさしい心を持った人です。この本にはそんなミセス・ハリスの魅力が描かれています。
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