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2023年01月04日00:34

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「新疆ウイグル自治区」

「新疆ウイグル自治区 中国共産党支配の70年」
熊倉潤:著 中公新書

去年読んだのに感想書いてない…。

要約して感想書くのは難しいですね。
西域の時代からざっとあらましが書かれ、結局この地域は清朝の時代に征服されて「新疆」すなわち新しく切り開いた辺境の地、という名前が与えられたところから現代につながっていくことになります。
辛亥革命後も新疆省として存続しましたが、その間に東トルキスタン独立運動とかソ連の横やりとか、いろいろありました。中華人民共和国が成立すると、中国全土が共産党によって列強の支配や国民党の腐敗政権や地主や資本家から「解放された」ということになり、新疆も共産党によって「解放された」ということになりました。

で、中国本土ではその後もずっと「解放神話」が無条件に存続し続けたのですが、新疆となると漢民族とのせめぎあいがあり、必ずしも受け入れられるというわけにはいきませんでした。その中で、新疆当地に理解のある幹部がやってくるか、無理解な幹部がやって来るか、でかなり変動が起きたようです。
結局統治のトップにいるのは北京政府から送られてきた漢民族で、ガス抜きに何人かの現地人つまりウイグル人がその中に入ることがある、というものでした。そして、それまで「新疆省」だったものを「自治区」としてより高度な自治が行われるような体制を編み出しました。その下にはさらに自治県、自治州が置かれました。
ここで自治区に「ウイグル」という名前を冠するかどうかでももめ事が起きています。この地域には多数の少数民族がいることもあり、また「ウイグル」という民族名も新しいものであり、それをを採用するかどうかでもめました。

その後の中華人民共和国の歩みとして、大躍進や反右派闘争などが起こります。大躍進はあり得ない生産向上を目指して国を混乱させ、反右派闘争では「右派」とレッテルを貼られた人たちがたくさん逮捕されました。

大躍進や反右派闘争は新疆にも導入されました。結果、こういった少数民族の地域で起こりますと、漢民族による現地民族の弾圧という図式になっていくのです。

さらに、文化大革命がおこると、紅衛兵がやってきます。
ただ、中華人民共和国成立以前から、この地はソ連の影響が強く、弾圧が強まるとソ連へ逃げる人が増えました。そういったこともあって、ソ連逃亡を防ぐためにもウイグル人に対して穏健な政策を取る方向に傾いたようです。また、少数民族の幹部も選ばれるようになりました。

文革が収束しますと、民族政策もさらに進展していきました。
改革開放も新疆にも及びました。

それはそれで新しい問題が生まれました。
そもそも共産党政権下の中国は民主政権ではなく言論も制限されています。漢民族でもへき地の田舎の貧困問題があり、簡単には解決しません。
それが、新疆ウイグル自治区で人民が人権や貧困問題の解決を主張し始めると、中国全土の問題にかかわってきます。大衆の声を聞きすぎると、共産党政権の基盤にかかわってくるのです。そこを引き締めようとすると、中央政府の少数民族に対する弾圧ととらえられて現地の不満につながっていきます。

そうしたら、今度はソ連が崩壊して中央アジア諸国が独立します。するとウイグル自治区でも独立を意識するようになります。
あるいは、アフガニスタンでソ連が撤退したらタリバーン政権が成立します。タリバーンはイスラム原理主義と結びつき、国境を越えて中東地域から中央アジアにイスラム原理主義のグループが生まれていきます。こうなると、中国政府も「テロ対策」が必要になってきます。

2001年9月11日以降アメリカを中心に世界で「反テロ」運動が盛んになります。中国政府も新疆ウイグル自治区でのテロ行為の取り締まりに力を入れるようになります。アメリカでイスラム教徒というだけでテロリスト扱いを受ける人が増えたように、新疆ウイグル自治区でもイスラム教徒が多いために取り締まりが厳しくなっていくのです。

さらに、21世紀にはいると「西部大開発」が始まります。沿海部の頭部が豊かになっていくのに対して、奥地が取り残されているということで、開発のテコ入れを図りました。
西部と言えば新疆ウイグル自治区は最西部。ここに漢民族が開発のために大挙して入ってきます。現地の意向を無視した「開発」が進んでいくことになります。

そうして習近平時代に突入します。
「反テロ」「開発」政策はさらに進められます。

そこを見ますと、共産党政府による模範的な開発を進めるためにウイグル人を指導すると、現地の反発が起きます。反発が起きると取り締まりをする、取り締まりをすると反発がさらに大きくなる…という悪循環に突入しているような気がします。

ついに2017年には「職業技能教育訓練センター」が設立されます。共産党に対する忠誠心が疑われる人民に対して教育矯正を行う機関です。
もちろん「弾圧」なんて言いません。「脱過激化」で、まっとうな人民になることが目的だといいます。そうして職業訓練を終えると政府の援助で就業して「幸福な生活」を送っている…と、いいます。

最後に著者は「ジェノサイド」認定の是非について語っています。
欧米諸国は中国のウイグル自治区政策を「ジェノサイド」といって批判し、国際的にそう結論付ける決議も行っています。しかし実際弾圧が行われているとして、それを「ジェノサイド」と断言していいものかどうか。

例えば「ジェノサイド」を定義する概念に「産児制限」があります。実際産児制限は行われてきました。しかし、中国では長らく「一人っ子政策」が行われてきました。漢民族は子供は一人に制限されました。しかし少数民族は二人まで許可されていました。漢民族の一人っ子政策を無視して「子供は二人までという産児制限が厳しく行われた」ことを「ジェノサイド」と定義するのが妥当かどうか。

私が思うに、例えばナチスのユダヤ政策は完全にユダヤ人の殲滅を目的にしていました。
しかし中国でウイグル人に対して行われていることは、多かれ少なかれ漢民族にも行われていることの拡大版です。政府はウイグル人の撲滅を目指しているのではなく、政府に従順な人民を作り出すことです。これは漢民族に対しても同じです。政府に従順でない人民は漢民族でも逮捕されます。

中国に対して「ジェノサイド」という言葉で批判することは、中国政府の態度をかたくなにするだけです。中国政府は「良きウイグル人、良き中華人民共和国人民」を作り出したいだけです。ウイグル人を殲滅するつもりはありません。なので、ウイグル人を「矯正」する方向が間違っている、と言うべきです。

しかしそれは簡単ではありません。弾圧されているのは少数民族だけではなく、漢民族もだからです。ウイグル人に対する政策を批判すると、中国全土に対する政策を批判することにつながります。言論の自由や人権の擁護につながっていくので、現在の習近平体制ではかなり難しい。
漢民族では体制とそれに対する批判、という問題が、ウイグル自治区では少数民族弾圧と言う問題になってしまうのがまた難しい所です。

せめてウイグル語やウイグル文化や現地の信仰を大切にして…というのも難しいのでしょうか。

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