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2022年07月31日18:41

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「リコリス・ピザ」を見て。〜たとえ黒歴史と見做そうとも、回り続けるレコード盤みたいに、何歳になっても甘くぶりかえす恋しい気持ち〜

「青春とは、人生のある期間を言うのではなく心の模様を言うものだ」世間で流れる有名な詩の一節が、見ながら過る。主人公の年頃でなくとも、経験ある人なら、むかし抱いた作品と似たような、足元を浮き立たせるかの差し迫った想いを、しまい込んだ記憶の奥底から呼び起こして、実年齢に関係なく、浸らずには居られない。

てっきり、劇中大事な「食事(消えもの)」として出て来る故のタイトル命名と決めつけていたのだけれど。見終わって確認したら、アメリカにかってあった、レコードチェーン店の名前をタイトルに冠しているのだとか(それすら、劇中で見かけなかったが)。

お店の全盛時には、音楽を聴き始めの「最初の一枚」を誰もが買いに行くのが必然だったらしく、レコードを恋する対象に置き換えて、感化されて求める者が誰でも通うということで、「通過儀礼」意味合いのうえに、舞台となる70年代当時に流れていたロック、ポップスの曲を劇中にフィーチャーしたのもあっての命名かなと推測。

70年代オイルショックの頃のハリウッドの近郊都市に住む、高校一年15歳のゲイリーと、20代半ばの年上女性アラナのお話。予告等から、思春期的好奇心が先立った、男子目線の甘酸っぱい、グローイングアップ的なものを想像もしたりしましたが、三大映画祭を制した監督が、そんな安っぽいティーン作品なんか作る訳など、微塵も無く。

高校生と云っても、冒頭、二人が出会う校内での個人写真撮影以外に学園は出て来ず。ゲイリーは、土地柄か、子役的活動をしつつ、外で働く母親に感化されてか、学業に縛られず独立心が先立って、「ウオーターベッドの委託販売事業」の様なものに勤しんだりして。

彼から一方的なアプローチを受けたアラナも、登場当初は写真屋の補助みたいな事はしているが、特に野心も無く、家では、厳粛なユダヤ教徒である父親から、未だに執拗に干渉を受けて息苦しさを覚えるなど、行き詰まり感を抱えていたのだ。

想像していたのは、酸いも甘いも知って、オボコ男子には、艶っぽさが眩しいオトナの女性によって、ひと夏、「転がされる」構図だったけれど、優位に立つはずのアラナと教えられるはずのゲイリーが、こちらの勝手な見立てと違って、当初からイーブンな関係のうえに、ゲイリーの高校生らしからぬペースにアラナが巻き込まれる。

目の前の相当歳の離れたゲイリーの言動からの共鳴で、時に、知らなかった世界に高揚すれば、時に、相手の子供じみた振る舞いに、自身を客観視して落ち込んで、憧れを抱かれる側の葛藤が、70年代当時の価値観に絡めて、男の子が、オトナの階段を上がれば、オトナ女子は、コドモ高校生からの刺激で、覆っていた殻を破る様子が描かれていた。

ありがちな男子学生目線の、アオハルグラフィティに留まらず、誰もが覚えのある、子供っぽさから背伸びする未成熟な頃をお題として、心に思う相手と、共に過ごしたい、年齢に縛られず「切実で、ひっ迫した」思いが、飾ったセリフなど要せず、夜の街に、互いを求めて走る、アラナとゲイリーの姿を映すまで、暖かく見守り綴った、監督の語り口に、すっかり魅入られました。

更に、タイトルについて言及すると、私には馴染み無いけれど、リコリスって、欧米のグミ菓子とかに必ず入っている、黒い繊維を丸く巻いたもので、その形状から発想して、レコード盤に行きついて、先の店名になったらしい。甘さと、もとの薬草由来の苦みみたいのが入り混じって、一口目は、印象わるいのだけど、ついつい、後をひいて口にしてしまうのだとか。それを知ると、この作品には、相応しい命名なのだろうけど、ちよっと、日本人には、判り難い。

実在の映画人をモデルにした役を、ショーン・ペン、トム・ウェィツ、ブラッドリー・クーパーら、お馴染の俳優さんたちが、楽し気に演じられていて、演技素人の主役二人を盛り立ているのも、見どころでした。

拙文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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