武藤喜兵衛は音月からの鈴の棒を受け取った。その後、巫女たちの舞は終わった。そして
喜兵衛は「巫女たちの舞はいかがでございましたか」と羽柴秀吉に言った。
「なかなか華麗な舞であった。それにしてもまわりの兵が居眠りをし始めたのは
なぜじゃ? お主、まさかあのお神酒に眠り薬でもいれたのではないか?」
「めっそうもございません。兵たちは、戦疲れで、お神酒の酔いがまわり、巫女の美しい声に眠気を誘われただけでございます。秀吉様が起きろと言えば、兵たちはすぐに起きあるでしょう。さて、これから戦勝祈願の締めくくりとして、私がこの鈴の棒を使って、天より秀吉様への勝機を呼びとうございます。」と喜兵衛は鈴の棒を振り始めるやいなや、
鈴の棒からすばやく短剣を抜き出し、喜兵衛は高く舞い上がり、秀吉の頭めがけて、短剣で突き刺そうとした。
しかし、そばにいた竹中半兵衛はその異変に気付き、吹き矢にて喜兵衛の短剣を跳ね飛ばした。喜兵衛の奇襲作戦は失敗したと思われたが、喜兵衛の作戦はおとりであり、巫女の
音月を含む5人の巫女が秀吉を後ろからすばやく抑えつけた。秀吉は巫女たちの強い香水の匂いの威力に負け抵抗できなかった。そして音月は足に隠し持っていた短剣を抜き、短剣でまさに秀吉の首を突き刺そうとしていた。
喜兵衛は半兵衛らに「無駄な抵抗はやめるように。もしお主らが歯向かう態度をみせれば、
音月が秀吉の命を奪うであろう。」と言い、半兵衛らの動きを抑制した。
秀吉は「わしの命など惜しくない。巫女の手にかけられてこの世をさるのであれば本望である。この世を去る前にお主の正体について知りたい。やはり、お主は武田のまわしものであったのか?」と喜兵衛に言った。
「よくぞ見抜かれましたな。ご察知の通り、私の名は武藤喜兵衛と申し、武田家の家臣でございます。今、織田家は岐阜城を落とされ、織田家は滅ぶのは時間の問題でございます。いっそのこと武田家の家臣になりませんか? 家臣になったあかつきには清州城を秀吉様に与えたく存じます。こたびの失態、信長様が知れば、おそらく秀吉様は切腹ものでございましょう。さらにはこれらの巫女で秀吉様がお気に召せば側室にしてもかまいませぬ。」
秀吉は意外にも「分かり申した、最近の信長様の行動、言動には耐えがたきものがあり、信長様に不信を抱いておりました。これも何かの縁、今後は武田家の家臣として、つくしてきとうございます。わが重臣、秀長、半兵衛、一豊もよろしゅう頼む。」と喜兵衛に言った。
そんな中、一人の急ぎの使者が秀吉の陣に現れ、煙幕にてまわりは煙につつまれたのであった。
つづく
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