たとえばそれは予想外の一眠りのようなものかもしれなくて
ちょっとだけ 少しだけのつもりで瞳を閉じ
思いのほか寝過ごしてしまったよう
ああもう時間は無い
行かなければならない理由があったっていうのに日は少しずつ向こう側へ溶けていくように形を崩していく
そして暗くなる 瞳を閉じて眠るように
そして暗くなる おもちゃ箱を閉じたように
そして暗くなる 今日という日はもう終わり
考えてみればそれは夜明けに降った小雪なのかもしれない
みんな眠り込んでいて、知らず、見ることもなく誰かの一日が始まる朝には居なくなって
ああ、もう消えてしまったんだ
朝焼けの光にキラキラと僅かのあいだ、輝き、それによって溶けて跡形もなく、ただ湿った土の香りだけを遺して
やがて溶けて消える 最初から無かったみたいに
やがて溶けて消えていく 形を保てず水になって
やがて溶けて沈む 透明な水の一滴、それも泥にまみれてわからくなった
思えばそれは食卓の上の器に満たされたスープなのかもしれない
必要な部分だけを切り取っては鍋に放り込んでクタクタに煮込んでいく
ああ、グズグズに崩れていく『必要な部分』
呑み込みやすく小さくと考えて努めていき、グルグルと掻き回せばふと切り捨てた部分を思い出す
でもそれは 捨てなければいけないところ
でもそれは 諦めなければいけないこと
でもそれは 本当に捨てなければいけなかった?
一眠りと寝過ごして、見過ごして消えていった小雪を惜しみつつ、不要部分切り捨て作り上げたスープ
鍋の中でクルクル回ってる
器の底は白くて無機質にツルリと鈍く光ってる
注げば見えなくなった
まあつまりはそういうことなのだ
そうしてあなたも私も生きていく
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