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2021年01月19日21:15

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私家版(地下版?)ゴジラ案:その21

*呪詛

「米軍関係者信号無視・1人死亡」
 見出しはそれだけだったが、現場交差点の背景には会見予定の放送局ビルが映っていた。その下に被害者の氏名が小さく出たとたん、突き上がる衝動のまま省次は部屋を跳び出したが、即座に腕を掴まれた。振り返った瞬間の当て身に意識は断たれた。


 自室の椅子で意識を取り戻したその時、省次の目は武部の姿を捉えた。だが足に力を入れただけで当て身を食らった腹が捩れ、浮かせかけた腰が再び沈んだ。そんな様子を冷ややかに見下ろす相手を怒りに燃える若者は罵った。
「よくも、よくも先生を。おまえたちは人殺しだ!」
「あれは事故だ。運転していた奴は米軍での調査がすめば本国で裁きを受ける」
「そんな芝居でごまかす気か、ふざけるな!」
「わからず屋めが、では問おう」
 いい募る省次にそう応じ、武部は腕を組むや問いかける。
「あの裏切り者さえ死ねばどれだけの命が救われるか、おまえは考えたことさえないのか」「なんだと?」
 睨む省次に全く動じず、腕を組んだまま武部は続けた。
「いくら自衛隊に行く年齢でなくても、おまえもわかるだろう。自衛隊はゴジラに勝つために戦ってるんじゃない。避難する時間稼ぎのためにこそ、勝てるはずのない相手に戦ってるんだということを。ゴジラとやりあえば隊員はまず生還できない。それでもその犠牲がなければ、はるかに多くの死者が出るんだ。通常兵器でゴジラと戦うというのは、自分一人の死で十人、百人の命を救うということなんだぞ。誰もが多かれ少なかれ、自分にそういい聞かせて出撃している。三年間の入隊義務の間、自分のいるエリアにいつゴジラが来るかも知れぬ恐怖に怯えつつ、それで精神を病んだとしても出撃に耐えられるうちは除隊も許されない。でないと戦力が維持できないし、そもそも身代わりにさえなれればいいんだからな。そんな馬鹿でかいロシアンルーレットに身を晒す隊員や、彼らを送り出すしかできぬ身内がどんな思いでいるか、おまえはわからんのか。ならばおまえもあの先祖と、芹沢大介と同じ裏切り者だ!」
 砕けた言葉が喉につかえ、息ができなかった。物心ついて以来ずっと浴びせられ続けてきた呪詛という呪詛がのしかかり、脂汗まみれの若者は身動き一つできなかった。そんな省次を、武部の言葉はどこまでも仮借なく追いつめる!
「俺には兄貴と弟がいた。だが二人ともゴジラに出会って死に、俺だけが出会わずに生き延びたんだ。俺が喜んでるとでも思ってるのか? 兄貴は弱音一つ吐かずに出撃していった。俺が無事に除隊したことを喜んでくれた弟は、出撃を命じられたとき涙声で電話をかけてきた。そんな風に見送って生き残ったことを喜べるか? この国にそんな連中がどれだけいると思ってる。その周囲の、見送ることしかできなかった近しい人々の数を考えたこともないだろうが! それが全部、芹沢の犠牲者なんだぞ! あんな奴のような身勝手な信条を押し立ててゴジラへの対抗手段を損なう者はみな敵だ。裏切り者のなすがままにさせれば、俺たちみたいな思いをする者はいつまでたってもなくならんだろうが!」
 胸ぐらを掴んだ片腕だけで、若者は宙に吊り上げられた。
「国民を守る役に立てぬ科学者になど用はない。おまえの仕事は機龍を完全無欠のゴジラ兵器として完成させることだ。それしか勝てない戦いに出向く者を救う道はない。もしおまえが俺たちに背き務めを放棄するなら、俺がこの手でおまえを殺す!」

 床に投げ出されしばし身動きもできぬまま、省次は閉じた扉を呆然と見上げていた。


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