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2021年01月23日07:54

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私家版(地下版?)ゴジラ案:その22

*あってはならないことなのに

 翌日から省次は機龍の問題点を洗い直す作業に着手した。それは湯原教授から託された願いであり、一族に向けられる理不尽な恨みに対処する手段も結局それしか見いだせなかった。考えれば考えるほどつのる割り切れぬ思いにもかかわらずゴジラに挑むごとに犠牲が出るのも厳然たる事実である以上、それ以外にすべはなかったのだ。
 だが湯原教授という相談相手を喪った今、残された手がかりはもはや機龍だけだった。考えあぐねた結果、省次はゴジラの脳と接続されたAIに脳波の解析機能を追加することを思いついた。ゴジラの脳が発する脳波がどのようなものなのか、それを人間の脳波と比べれば、感情や思考めいたなにかを読み解く手がかりとなるかもしれない。なにが起こっているかがわかれば、対処方を見いだすこともできるのではと。
 飛躍はいくつもあるはずだったが、省次はあえてそんな作業に没頭した。機龍のサイボーグ化をより押し進めることになりかねないとの思いもなくはなかったが、わからないまま放置するより危険は抑えられるはずとも思えたし、いざとなれば手動操縦へと切り替えられるよう既にプログラムは改修している。省次もまた英理加と同じく自分たちに向けられる仕打ちへの鬱憤をゴジラやゴジラと見なさねばならなくなってきた機龍にぶつけるしかない状況へと追いつめられていた。

 だから省次は英理加にメールで現状を包まず知らせ、その上で湯原教授の遺志でもあると伝えゴジラについての情報を求めた。するとこんな返信が届いた。

 あの原発での戦いで、明らかにゴジラが原発より機龍に気を取られていたことには気づいていたのね。でもあの時、ビオランテや私に機龍がどんなふうに見えていた、いえ感じられていたかはわからないでしょう。少なくとも私には、機龍の内部の生身の、ゴジラの部分がおぼろげに感じられた。それを機械や外装などの異物が覆っているものとして。以前の戦いまではそう見えていなかったものが。だからあの時、私はビオランテをあえて原発に近づけた、ゴジラが原発に気を逸らされるか確かめたかったから。その結果、もはや科学者としての私には、ゴジラにも機龍がそう感じられている可能性を否定できなくなってしまった。あってはならないことなのに。

 おかしいのではと省次は思った。奔放なまでに変貌し続けるビオランテのことを思えば、今になってゴジラのように見えたり感じたりするようなことがあるのだろうか。これまでになかった見え方をするようになったのであれば、それはそれだけゴジラからかけ離れた存在になった証のはずで、ゴジラにも同じように見えていると結論づけられるものではないのではと。そう考えを纏めメールした省次の胸の中では返ってこない返信を待ち続けるにつれ、得体の知れない予感めいたものがじわじわと広がり始めるのだった。


−−−−−−−−−−


 光る携帯の画面から、顔を上げた女がさらに振り仰ぐ。白衣は闇にうっすら浮かび上がるが、仰いだ顔は暗がりに溶け、視線の先にあるものも闇に呑まれたままだ。にもかかわらず、女は闇の彼方を見据えた。暗がりの中の目はもはや闇に阻まれることなどなかったから。
 その目が捉えるものに、だがおぼろな白衣がおののく。そしてはるか頭上に呼びかける声もまた。
「……違う、違うわビオランテ、そんな姿はおまえじゃない」


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