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2021年01月04日22:19

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私家版(地下版?)ゴジラ案:その20

*決意、そして

 二度に渡る暴走を受け、特殊部隊のパイロットが機龍の操縦を拒否する事態に至り、省次は再び操縦を担当することとなった。プログラム改修の責任者だからというのが表向きの理由だったが現場と政府側との間の足並みの乱れは省次の目にも明らかで、政府側の窓口を務める山川の焦りはもはや隠しようがなかった。そんな山川の働きかけでマスコミには機龍の冷線砲がビオランテを一撃で倒した映像がありとあらゆるチャンネルで繰り返し流される反面、暴走した場面はおろかビオランテの凄まじい再生能力やゴジラが機龍の外装を引き剥がそうとした様子などの映像も全く公開されることはなく、ただ機龍の稼働時間が短かったばかりにゴジラに痛手を与えられなかったとの論調で報道するケースがほとんどだった。やがてSNSにはこれだけの威力がある以上、機龍を首都の防衛から外すべきではないとの投稿が増え始め、ついには機龍の稼働時間を長くする抜本的な手だてを政府は取るべきだと主張するものまで出始めるに至った。憤りを覚えずにおれぬ省次だったが、それらの報道を目にした湯原教授のそれはもはや憤怒とさえ呼ぶべきものだった。だが思わず激高したそれ以降、老教授はその話題を口にしなくなった。けれども考え込むことが増えた老人がふと見せる思い詰めたような表情に、若者は胸騒ぎめいた思いを禁じ得なかった。
 そんなある日、湯原教授は研究室へ17時に来るようにと省次に告げた。


−−−−−−−−−−


「確か君のAIには、単にコマンドを登録してあるだけじゃなく近似した表現を類推できるように文法解析のデータや辞書なども組み込まれていたんだったね」
 部屋に入るなりそう訊ねられた省次は、思わず湯原教授の顔をまじまじと見つめた。見慣れたはずの温厚な顔は、あたかも皺のごとく懸念が深々と刻まれたものに一変していた。
「……そうですが、なにか問題が?」
「いや君のミスじゃない。ミスだとすれば、むしろわしの方かもしれんのだ」
 いっそう訝る若者に、老教授はPCの画面を向けた。そこには原発での戦いにおける機龍の記録動画が映し出されていた。
「ゴジラの声がトリガーになっているのは以前のフリーズと同じだが、今回は命令にない行動が見られる。しかも最初は無秩序な武器の乱射だったが原発を目指す歩みにはある種の傾向や方向性の発生が認められ、最後のビオランテへの冷線砲攻撃に至っては判断と呼ぶべき水準の行動になっている。機龍の中の脳の働きはAIの補助という役割から逸脱していると考えねばならんのだ。そんな脳にそれだけの言語的な蓄積を付与している以上、我々の言語を理解する可能性もあるのではとわしは思う。しかしそれがいかなる事態を招くのか、正直なところ見当もつかんのだよ」
 あっけにとられる省次の前で、湯原教授は机の上で組んだ己が手に視線を落とした。そんな老教授に、訊ねる若者の声は掠れていた。
「機龍に何らかの意識が芽生えていると、先生はそうおっしゃるのですか?」
「少なくとも行動を見ている限り、我々の意図に即したものとはいえん。対ゴジラ兵器を作ったつもりで我々はゴジラを甦らせ、サイボーグ化してしまったのかもしれんのだ」

 しばしのはずの沈黙が、永遠とさえ感じられた。呼吸の仕方を忘れたような口で、省次はようやく言葉を紡いだ。
「上申されたのですよね。こんな大変なことなら、上だって」
 机から見上げた老人の縋るような表情に、若者は言葉を続けられなくなった。
「これほどの事態だというのに、わしには上層部を動かすことができなかった。こんな状況下で機龍を君に押しつけることになって心苦しい限りだ。だが、今となっては機龍を託せるのは君しかおらん。頼む、とにかく機龍を、機龍の中のゴジラを押さえ込んでくれ!」
 まぎれなき哀願の表情の顔の中、だが、目だけが違っていた。覚悟という言葉などでは追いつかぬ、憤怒めいたものさえたぎる目に、省次は老教授の意図を悟った。
「……まさか、機龍の危険性を公表されるおつもりですか?」
「2時間後には会見を開く。今の機龍がどれほど危うい存在か、国民は知らねばならんのだ」
「でも、そんなことをすれば先生が!」
 思い詰めた顔がかぶりを振った。
「あの時わしは小さすぎてなにが起こったのか理解できなんだ。だが戦後のひどい時期に一言も弱音を吐かずに育ててくれた母が死ぬとき初めて口にしたのだ。こんな病気で置き去りにしてすまんと詫びた後、自分たちは国に騙され大黒柱を失いこんな身の上に落とされた。誰もがそうだったと思えばこそ口にせなんだが、裏切られたとの思いを、恨みを抱え込んだままこうして死ぬのが悔しいと。君に機龍を押しつけるしかすべがないならば、わしもせめてできることはせねばならん。あんな思いをする者を二度と出さんためにも。そうだろう?」

 引き止める言葉を見いだせぬ省次をしばし見つめ、湯原老人は上着を手に立ち上がった。
「たとえ会見が開けようと、ゴジラが現れれば機龍の出動は避けられん。もはや理想の解など存在せぬ難問だろうが、君の信じる最善を見いだしてくれ。それと白神くんにはなんとか連絡をとるように。我が子にゴジラ細胞を投与し自身の体にさえその因子を与えておる彼女以上に、生き物としてのゴジラを深く知りうる者などこの世におらんだろうから」

 せめて同行すると食い下がる若者に、老教授は機龍の基地へ、君の持ち場へ戻れと諭した。曲がり角で手を振った小さな人影を目に焼き付けたまま、省次は長い間その場に立ち尽くしていた。ようやく自室へ戻ったとき、会見までの時間は1時間にも満たなかった。時おり白神に連絡を試みつつも、その目はTV画面に釘付けだった。
 だが、飛び込んできたのは凶報だった。


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