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2020年10月03日01:06

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「シルクロード世界史」

「シルクロード世界史」
森安孝夫著:講談社選書メチエ

先日の日記に書いた講座関連の本です。

最初は「世界史とは何か」という問題から入ります。
そして世界史を下記のような時代区分で考えることを提唱します。

1.農業革命
2.四大文明の登場
3.鉄器革命
4.騎馬遊牧民集団の登場
5中央ユーラシア型国家優勢時代
6.火薬革命と海路によるグローバル化
7.産業革命と鉄道・蒸気船
8.自動車・航空機と電信の登場

最初の農業革命は、狩猟採集で生活していた人類が農業生産を始めるようになったことです。
そして、四大文明が生まれ、鉄器が発明されます。
騎馬遊牧民集団の登場は、講座のところでも書きましたが、馬を乗りこなす技術の開発は、人類の発展にとって非常に重要なことでした。

中央ユーラシア型国家というのは、北方の騎馬民族と、その南の農耕民とのせめぎあいの時代です。西洋中心史観では、アジアの一部で行われた形態であって「世界史」というものではないように思えます。しかし、ヨーロッパが中心の時代はせいぜい16〜17世紀以降の大航海時代以降。それ以前の歴史の中心はユーラシア大陸にあって、そこでは遊牧国家と農耕国家が時によって征服や略奪をされたり、交易を行ったりした、多民族・多言語・多宗教の複合国家になるのです。

6,7,8ときて西洋が中心の世界になっていきますが、それ以前の時代に比べて時代のスパンが非常に短くなっていきます。

このように、西洋中心史観から脱してユーラシア世界という視点で世界史を見る見方が提唱されているのですが、歴史の最新研究が反映されていて、中央アジア史の本としてもとても興味深かったです。

著者は「シルクロードと唐帝国」でも、ソグド人のネットワークが世界に及ぼした影響を書いていましたが、その後中央アジアに移動してきたウイグル人がソグド人の文化や言語の影響を受け、ウイグルの後にやってきたモンゴル帝国はウイグルの影響を受け…という連鎖があるということです。特に文字に関してはソグド文字→ウイグル文字→モンゴル文字という系譜をたどれます。

当時のウイグル語の手紙、契約書などを解読すると当時の社会が浮かび上がってきます。
それは未知の遠い世界ではなくて、今の時代でも共通の事柄として感じられます。手紙は定型のあいさつ文があり、キャラヴァンに託して送った品物の明細があり、さらにその内容を調べたうえで受け取るように指示があったりします。それを見ると奢侈品などの荷がどれぐらいの価値で取引されていたのかがわかります。

こういうのを読んでいると、人と物ってどんどん移動するんだなと思います。シルクロードのキャラヴァンで運ばれるのは主に奢侈品ですが、ラクダに荷を積んで陸路を行くので、重量はあまりなくて高価なものが選ばれます。絹はもちろん、金銀宝石、香料など。また「自分で動く」家畜と奴隷もあります。そういったものを運んで商売をして富を蓄積する、運ぶ人も中継地点の都市も栄える。
ソ連時代は中ソ国境は行き来が厳しく制限されていましたが、ソ連が崩壊したら、旧ソ連領の中央アジア諸国と中国の新疆との間はどんどん行き来が盛んになっていきました。カシュガルのように西の端の都市など巨大なバザールができて、商品がたくさん運ばれてきます。私はテレビでその様子を見て、本当に人と物はいくらでも行き来するものなんだなと思ったことがあります。

それから、この本ではマニ教に注目しています。
マニ教は今ではすっかりすたれてしまいましたが、もともと古代ペルシアの宗教で、中央アジアでは経典がたくさん出土しています。それも中世ペルシア語だけでなくソグド語、ウイグル語、漢語など多数の言語のものがあります。なんか、北アフリカではコプト語、ギリシア語、ラテン語の経典も発見されたとか。

唐の時代、モンゴル高原にはウイグル人が東ウイグル帝国を建てていました。そこにもソグド人が入り込んでいて、マニ教をウイグルに伝えました。唐では安史の乱が起きて、皇帝が都を追われる事態が起きましたが、その時に乱を鎮圧するのに遊牧騎馬民族のウイグル人が援軍に呼ばれました。そうして唐の中でソグド人・ウイグル人の力が大きくなり、マニ教も中国に伝わりました。
しかし唐では仏教を排除する「会昌の廃仏」が起こり、一緒に当時入っていたゾロアスター教やキリスト教と共にマニ教も弾圧されました。さらに東ウイグル帝国はキルギスの攻撃で滅ぼされ、ウイグル人は南方へ逃げてバラバラになり、トルファンやタリム盆地にそれぞれ国を作っていきます。そのうちタリム盆地の北部を支配した西ウイグル王国は仏教国になります。
マニ教は、中国では南方に生き延びて、その後も密かに寺院が作られ信仰されてきました。

マニ教は日本にも入ってきました。
近年になって、中国から入ってきた特殊な仏画だと思われていたものが、実はマニ教絵画だった、ということがわかったのです。キリストに凝せられたマニの像や、マニ教の教義を表した図像などいろいろ見つかっています。
あまり一般に知られていないマニ教という宗教は、意外なほど「世界宗教」だったようです。

あとがきで著者は高校の世界史の変化に異議を唱えています。
高校では「世界史」が必修でなくなり、「歴史総合」という教科ができます。日本と世界の近代史が中心だそうです。そうなると、それ以前の「前近代」への関心が薄らぐことを懸念しています。
…そんなことになるの?大丈夫?

ともかく、その「前近代」で重要な地域だった中央ユーラシアの歴史とその意義を広く知ってもらいたい…というのは私も大いに同感するところです。

出版社のサイト
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000344839
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