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2017年06月20日07:17

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アイブ・ネヴァー・ビーン・イン・ラブ・ビフォア

チエット・ベイカーというジャズのトランぺッターがいて、僕は子供の頃から大ファンである。

トランぺッターとしても一音一音に想いが籠ったような独特の音で、激しいブロウで圧倒するような感じではなくって・・・聴いてるとフワッと心を持っていかれるような・・・或いは、吸い込まれるような魅力がある。

そして、チエットの魅力はペットだけではなく彼の歌にもある。
決してシナトラのように朗々と歌い上げるわけでもなく、エラのように派手なスキャットで圧倒するわけでもない。

淡々と頼りない中性的な声で歌うのだが・・・ペット同様に麻薬的な魅力がある。

まあ・・・麻薬と言えばこの人はひどいヘロイン中毒に死ぬまで悩まされた人なんだけど。

この人の映画をレンタル屋で借りてみた

よく「人間やめますか？ドラッグやめますか？」みたいなポスターを見たことがあるけど・・・

この映画は麻薬と戦う人間チエットの様子が非常に巧みに描写されている。

暫く、ドラッグをやめてクリーンになり再起をはかり、生活保護やガソリンスタンドなんかで働いたりしながら・・・周りの助けを借り、チエットは再びジャズの名門バードランドのステージに上がる。

その楽屋で再び緊張感のあまり、またドラッグに手を出してしまう。
麻薬に限らず、依存症患者というのは独特の精神構造になっていて・・・
普通であれば「ここ一番の大事な時だからこそ」クリーンであるべきなのに、「ここ一番の大事な時だからこそ」ドラッグに手を出してしまう。

また「あんなに辛かったからこそ」もうやめるべきなのに「あんなに辛かったからこそ」ドラッグにしがみついてしまう。

あんなに辛かったんだ、飲まずにいられるか！のレイのアレだ。

そして1番大事な事は客観性を失ってしまう事だ。
ドラッグでキマッてるから仕方ないとか、酔っ払ってるから赦されると感違いしてしまう。

恰も愛すべき酔っ払いでもあるかのように振る舞う。

依存物質というのはそれに嵌っている人間にしか作用しないので、嵌っている人間がいくら気持ち良くなっていても周りの人間と感覚を共有する事は出来ない。

勝手に気持ち良くなっているだけだ。
愛すべき酔っ払っいなんて存在しない。

僕にはその心理がよくわかる。

それは僕も依存体質だからだ。
以前は音楽であり、今はビジュアルアートである。
絵画、立体造形そして写真だ。

日常の中で、まだ見ぬ光景はないか？

まだ、知らない美はないか？

表現されてないモノはないか？

人間だもの・・・相田みつをさんの有名なフレーズである。

人間の作るものだもの・・・そんな想いを込めて「アトムの夢」という作品を作った。

勘違いしては困るが、僕がチエットに共感したのはドラッグに沈殿して魅惑的な音楽を作った事ではなく・・・ドラッグを断ち切ろうと苦労しながら闘い続けた事である。

チェットは誰にも迷惑をかけないようにと・・・結果自分を傷つけ追い詰める。

よく狂気の芸術家みたいなものいいがあるけど、人間は狂気の中では整合性のある造形は作れないし、美しいメロディを紡ぐことは出来ない。
文章なら尚更である。

狂気と狂気の狭間の正気が凄いのだ

チェットの一聴すると非人間的な歌声は、実は一番人間らしいところに思える。

誤解を恐れずに言えば、原発事故は依存の狂気が醒めた正気のような気さえする。