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2016年02月03日18:26

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終点まじか

ハイデッガーの『形而上学入門』は終盤に達した。終点から2〜3こ前の停留所を通過しているところだ。戦後(1953年)この講義が本として出版された時ハーバーマスに「文体の隅々までファシズム的なものの染み込んでいるこの講義」と痛烈に批判されたと聞いていたが、私にはそうは思えなかった。一部にドイツ民族を強調しすぎたり、ナチ政権の一部哲学潮流を批判しながらも「偉大な運動」などと語っているところがありもちろん気になるが、その瑕疵を超えてこの講義の価値は際めて高いものである。存在とは何かという問いに真正面から立ち向かった記念碑的な思索ではないだろうか。

この本(平凡社版)には付録的に『シュピーゲル対談』(ナチ政権への協力についての弁明インタビュー。没後公表の約束が履行された)も収録されている。短いものだし、そちらから読みたい気持ちになる人も多いようだが、好意的に読んでも苦しい言い逃れにすぎないだろうから後回しにした。好きな女性がいたとして、よい評判と悪い評判を出されて悪いほうから読む人は愛しているとはいえない(ハイデッガーは別に恋人ではありませんが)。講義そのものが「隅々までファシズム」と言われれば読むのに多少覚悟は要ったが、そんなことはなかった。戦後すぐと現在では時代の雰囲気も違うのだろうが、客観的にみてこの書の価値を上記理由で全否定するのは勇み足と現在の私は感じる。

2500年ほど前のパルメニデスやヘラクレイトスが語った存在についての探究や、ソフォクレスの劇中のコロスの歌の分析などはすばらしいものだった(彼はそれらを詩とみなしている)。言語の指し示すものがいかに変質してしまったかを分析していく手腕は、なぜこの2500年間誰もそれに言及しなかったのかと疑わせるほど鋭利なものである。もちろん彼の言うことが正しいとは限らない。しかし、彼の手にかかると一般的哲学用語の意味が根源的に刷新される。同時にこうも言う。「言葉の起源についての第一の、そして決定的な答えは、われわれの場合にもやはり、この起源は依然として秘密であるということである」「秘密であるという性格は言葉の起源の本質に属する」。そして存在そのものも同じように秘密なのだ。そして問い続けることの中にしか存在も原初も姿を現わすことはない。


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