冷静と情熱のあいだ―Blu 辻仁成
私には
「5年先の今夜、どこかの街であなたとこうして夜空を見上げていたいわ」
と言って、約束を交わそうとした女がいた。
その期限が過ぎてしまったあとで、私はこの小説を読むことになる。
読み始めたそのことを、友だちに伝えようとするたびに、何度もタイトルを間違えた。「愛と情熱のあいだ」と言ってしまうのだ。
辻仁成という人に先入観は持っていなかった。しかし、女性がちやほやするのを耳にするたびに、その作品はおそらく甘ったるく、翻訳文のような独り善がりのモノではないかと想像した。だが、私は、これを先入観と言わないから意地っ張りか。
読み始めると、中断してしまうキッカケを探した。面白く無かったよ、といえるだけの理由を探しながら、、、となった。
「約束は未来だわ。思い出は過去。思い出と約束では随分と意味が違ってくるわね」というセリフを盛り込み、自分に何かを言い聞かせているのか。
彼自身がどんな人なのかを知りたいと思わないものの、この言葉の源流はどんな感性から生まれてきたのだろうか。
幾分気取って、詩的にも見える文章の流れに、私の感性を重ね合わせ、作者の普通の顔を想像しながら、変わりゆく小説のなかのシーンに自分をさらけ出すことのできる作品だった。
泣き虫の私が一滴の涙も流さないで読み終えたんだ。中断しなかったんだ。
何度も間違えたけど、読み終えたときには「情熱と…」としっかりと間違わずにいえるようになっている。その意味が爽やかだったからだろうな。
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