邦画で「砂」と付くと、「砂の女」を思い浮かべるけれど、前衛的でも人間の本質を突いてくるものでもなく。「夏の砂」とあるから、海辺の話かというと、面しているほど、海は近くなく。斜陽の造船工場近くの尾道も思わせる狭い急こう配の小路沿いに住宅がひしめく中の一軒家に住む心中に傷を抱えた中年男性と、そこに預けられたシングルマザーからは「お荷物」扱いで、成り行き任せの冷めた二十歳前の姪が同居した数日間の互いが及ぼす心中の変化を写し撮る。
舞台となる長崎の街は雨が殆ど降らず渇水状態が続いて、給水車が立ち入られる場所まで歩いて降りなくてはならない。その疲弊感を伴って「砂」のように乾いたと比喩されるのは、主人公小浦治にとって、造船所閉鎖による失業状況。そして過去に5歳の子供を豪雨中の事故で亡くしてから妻の恵子との間には「溝」による別居による持ち家に独り暮らしとなる。
留守中に忘れ物を取りに戻った恵子は、タバコを買って戻った治と久しぶりにかつての住処で鉢合わせ。更にそこへ、治の妹の阿佐子が押しかけて来て、福岡の男に会いに行く為に娘の優子を暫く預かってくれと治に押し付ける。宣材ビジュアルは、そのひとコマを捉えたものである。治役が、オダギリジョーさん、妻の恵子は松たか子さんに、阿佐子役が満島ひかりさんの、確固な演者トライアングルの中に放り込まれる優子役には、最近活躍の場を広げている高石あかりさんの布陣。
同名の戯曲の映像化で、あります。その映像化にあたり、主演のオダギリジョーさんが共同制作も務められているので、ご自身が舞台でも演じているのかと思いきや、全く別の方でした。舞台は、治の家の中でお話が進むみたいですが。映像化作品らしく、前述の「特異」な住宅地はじめ、長崎の風景を取り入れる事で、登場人物の生活感、実在感の肉付けをして。治らを焦がすかに日差しの照り付ける空模様だとか、息子が亡くなった用水路に捨てられた吸い殻の接写とか、演劇空間には現れようの無い心象表現も積極的に撮り込んでいる。
かようにダイナミックとは程遠い映像演出に、広い世代に感涙をもたらすドラマ性が皆無の作品で、見る人の感受性に委ねられる小品なだけに、見る方を選ぶかもしれませんが。境遇は重ならずとも、普通の方には、クズ極まりない生き方の治の心中には察するところがあったので、本作は、充分、染み入って来たのでした。
造船で培った溶接技術に執着ある故に、年齢、生計を度外視して全く違う職種に就こうとしないところもそうですが。恵子は、どうも元同僚の森山直太朗さん演じる陣野と同棲しているのを薄々察知していて。因みに、陣野自身も妻帯者ではあるのだけれど。造船所の仲間内の飲み会で陣野と顔合わせするも、直接問い詰めるとか、責めるとか治は、出来なかったりする。第三者にしたら、「子供じゃあるまいし」という見立てになるのだろうけれど。
それは現実を直視したくない、逃避の心理がまずあるだろうし。相手を問い詰めて、気を晴らす事に繋がれば良いのだけれど、妻の「移り気」に至った自身の未熟さをひけらかしてしまう事にもなる訳で。結局、その「ええかっこしい」も、光石研さん演じるもう一人の造船所の同僚の葬儀で、同じく別居している、TVドラマ「相棒」以外の作品で初めて見た篠原ゆき子さんの陣野の妻(コメディチックな場面でした)から問い詰められて、同僚に妻をかすめ取られた事は、衆目の事実となるのだけれど。
いい歳して子供じみている、精一杯の強がりというか、思いやりも、相手にしてみると、苛立ちにしか受け取られない。それが露わとなるのは、人づてで広島に造船の仕事紹介して貰って移住する陣野について行く為、離婚届を持って現れた恵子に、治が「子供の事故なんか、なかったと思うんだ」って、口走ってしまった一言。同僚に走ってしまった妻への、あてつけと同時に、心痛める過去は置いて心機一転、陣野と暮らせって送り出す気持ちもあってじゃないかと推測しました。まったく「送る言葉」になって無い。他に言いようも、あるだろうに。当然、恵子は、額面通りにしか受け取らないから、別れ際も凪の様に綺麗に行かず。
治宅から、恵子と彼女を案じてついて来た陣野の二人が降りてくるところへ、優子が遭遇して。厄介者の様に母親から扱われて、「子供」と見做されていた彼女も、その気はないのに、バイト先の西片じゃないや、高橋文哉さん扮するバイト先の大学生に付き合ってみる一方、治を通して、オトナとしては、スマートとは行かない不器用な関係性に感化されて、男女のイロハを体感しているのもあってか、優子が恵子に対して、「伯父さんは、私が面倒みますから」って啖呵を切る姿に、背伸びだとしても大人の階段を上がる感じが現れて。
オバサンパーマもあって好感度を下げるかの人物になり切っている松たか子さんに、臆さず張り合う高石さんに、この秋始まる朝ドラはじめとして、今後の活躍への期待も高まりました。
拙文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
シネプラザサントムーン シアター��にて
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