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2025年06月22日22:20

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「国宝」を見て。〜至高の演者の目前だけに広がる、舞台に舞い降ちるひらひらの光景は、才能と芸の優劣だけでは得られない。〜

取り上げられている「歌舞伎」が積み上げて来た格式故の芸事の奥深さと継承者のみが喝采を浴びられる排他性を巧みに作品に取り込まれている。歌舞伎役者を演じる10代の駆け出し俳優から超ベテラン前衛舞踏家まで舞台上の所作を叩き込み、女形の実力者に拾われた、天涯孤独となったヤクザの息子が、芸を磨き歌舞伎役者の血筋に生まれなかった事に抗いながらも、「お国」から最高栄誉を得るまでを絞り込んだ展開と外国人カメラマンによる格式高く作られた本作は、突発的なベストセラー小説の映像化とは明らかに「ハク」の違いをまとっており、受ける印象通りの見応えが保証されています。

任侠の組長である父が主催する新春の宴席の余興で、純粋に歌舞伎演目の愛好者として無心で舞う思春期の喜久雄。その席に招かれた女形の第一人者の花井半二郎は、少年に秘められた才能に目を奪われるのだが。和やかな祝賀の雰囲気の中、酒席で本物の歌舞伎役者に褒められ天にも昇る気分の喜久雄少年だったが、そこから一気に突落される「悲劇」が目前で起きて。半二郎に庇われながら、事件が起きた庭先を儚げに光りながら舞い落ちる雪の華が喜久雄の忘れられぬ光景として印象に刻まれる。


半二郎の元に引き取られて、喜久雄は彼の跡取り息子俊介と寝食を共にして、彼の「当て馬」的存在として俊介の歌舞伎役者の修練の並走者の期待もあったのだが、才を放つのは喜久雄であった。しかし彼は、歌舞伎の名家とは全く関係の無い存在。それ故、「芸」で真っ先に認められるようにと半二郎は、息子の俊介よりもまず喜久雄の身を贔屓として立てるのだが。

喜久雄を青年期から演じるのは、吉沢亮さんで。(少年期の喜久雄を演じる男の子も、「どこかで見た記憶があるな」と、後で調べたら。今泉力哉監督がTVドラマとして原作通りに撮った「からかい上手の高木さん」で、幸せ者の西片少年を演じていた黒川想矢クンで。先述の本作の大事な取っ掛かりで、女形を舞っていて。演者としてのステップアップを目撃する。)歌舞伎役者としての駆け出しから壮年期まで、主要演目を熟すうえに(「曾根崎心中」に至っては、二役もマスターの必要があって)、歌舞伎役者として舞台上で絶対無二の存在として輝きを見せる反面、横浜流星さんの俊介に「お前の血を貰いたい」って、後の公開となった吸血役の伏線みたいな、自身ではどうにも出来ない苛立ちをぶつけた様に、芸を極めるほどに内側で深まる鬱屈を抱えた表情も見せて、複雑な喜久雄の人物像を創り上げている。

主要メディアで主催される本年度の演技賞で、吉沢君の名前は筆頭にあがるインパクトを遺します。冒頭のひらひら舞う雪の華が、舞台上の喜久雄の目前に広がる光景に重なる時、「国宝」と称される演者としての到達点を示す。それは、膨大な上映時間の尺も含めて重厚な作品ならではの充実感をもたらしてくれました。

ただ、劇中喜久雄が「お父ちゃんは、悪魔と話をしているんやで」と、語る相手の女の子の使い方は、歌舞伎役者喜久雄が万人を引き付ける魅力の承認者として、作劇の巧さを認めますが。彼が「悪魔」と化したのは、如何にして「血を得る」ために女性との関係を持ったかだと思うのですが。梨園の一人娘として、脱新海誠作品ヒロインイメージを図って、オトナ役へのステップアップを図ろうと奮闘した森七菜さんに、もう少し爪痕を遺す機会を与えてあげられたら、喜久雄が「悪魔になった」のも実感が深まったのかなぁって印象は拭えなかった。

あと、喜久雄の生涯の目標以上の存在となる、伝説の女形に扮した田中泯さんの、「鷺娘」を舞台で演じる姿も、「さすが舞踏家」と認めざるを得ない堂々たる所作でありましたが。白粉を取った素顔、普段仕草、喋り口調からして国宝級の佇まいで見惚れちゃいました。

拙文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
シネプラザサントムーン シアター�△砲�

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