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2026年06月28日23:39

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「黒牢城」を見て。〜正しさを疑え、正しさを信じる自分も疑え。〜

メディアで昨日今日の短い間見聴きした僅かな間しか保たない記憶での歴史知見で語るので、ご容赦頂きたいのですが。検索する範囲では、荒木村重という人物は、優柔不断、自己中心的そして、卑怯者の人物像に祭り上げられる傾向だとか。そして、近代の史実と違って、記録手段も殆ど無いころで、僅かなセンテンスの「書き遺し」や「評伝」そして、それらを翻案とした「大衆芸事」を事実として知り得るところを骨子に実在と架空の人物の係わりで肉付けして、史実の舞台裏を推測、検証をもって今に至る経緯を思い至るのである。

織田信長の勢力が中国地方にも及んだ頃、それまで忠誠の姿勢を見せていた有岡城城主の荒木村重は、信長に反旗を翻し城に立て籠る。織田勢に取り囲まれ膠着状態のところ、説得のため接見に現われた黒田官兵衛を捕らえて城の地下へと幽閉するも。孤立状況にあって、城内も彼の差配で、並み居る家臣たちを引き立て「平静」を保っているところ。そんな僅かなバランスを崩して、一気に落城を招きかねない事件が降りかかる。その都度、当事者の言い分、事の検証を進めるも、城内政治と有岡城の行く末を天秤に諮らねばならず。荒木村重は、第三者的見識を求めて、牢に繋いだ黒田官兵衛の元へと自ら足を運ぶのだった。

未読ではありますが、直木賞はともかく「このミステリーがすごい」で一位に輝く原作と聴いて、城主と囚われの者が、行きがかり上で即席コンビを組んで、犯人を炙り出す骨子で進むと想像しておりました。最初に、「人質」として預かっていた織田側の武将の子供が城内で巻き込まれる事件こそありましたが。単に、犯人を突き止めて終わる話しでもなく。黒沢清監督の前作が菅田将暉さんだったので、本作も黒田官兵衛メインかと想像してしまいました。しかしながら、牢獄でいつ死んでも不思議は無い状況なので、簡単に荒木に付く訳が無く。城内政治とは無縁の「相談役」に過ぎません。

あくまで、メインは本木雅弘さん演じる荒木村重である。
織田側に付いていた頃は、狂騒的な君主に「追随する」フリで非情に徹して。一方、茶道にも通じる風流人であり。そして、元々土地の生まれでない為に任された城に務める家臣達を立てつつも、「媚び」も排除して手綱の裁きには細心の注意を払う。渡る世が世だけに、見た目通りの穏やかで文化に精通した好人物とは、括れないのだが。治世者としては、世情にも通じた、理性的な人物として描かれている。

吉高由里子さん扮する正妻の千代保は、過去に一向一揆で多くの命が無惨に失われる状況に遭遇しており。高名な僧侶から吹き込まれた「進めば極楽、退けば地獄」の教えが心を占めていて。その時に亡くなった民たちもその一心で、圧制者に向っていった結果が、累々と屍が重なる荒地のみだったのだが。それ故、政道を見極めたうえ、人質の少年の自害も致し方なしとの見立てをしていたのだが。

力ある立場の者が「正しい」として、押し通す事に他言を挟ませない風潮というのは、決して、物語上の戦国話で収まらず、現在の空気感と重なって。黒田官兵衛には、今居る状況を試されて。置かれた立場は、決して安定ではなかった本作の荒木村重であったのだけれど。決して、己だけの保身ではなく。家臣や、簡単には心許せない相談役の意見も拝借しつつ。「進む」ばかりが、極楽なのか。悩んだ挙句に多くの城下の者達にとっての「最適解」を、評伝として伝わる行動に重ねて。現代の誤っている指導者への対比として人物像を仕立てていて。それが、歴史観に正しいかどうかよりも、本作の村重を持って、現実をあらためて見る事を促されているようで、客席で居ずまいを正すのでした。

拙文にお付き合い頂き、ありがとうございます。
シネプラザサントムーン シアター�△砲�

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