タイトルにアーティスト名が入って。しかもコンサートと併記されているとなれば、丸々とその模様を収めたファンのみに向けられた記録映画かと思われがち。特に最近は、映画ではない映像コンテンツが映画館で掛けられて。そのファンからしっかりと「上納金」を巻き上げられるのを見越して、特別料金を課しているみたい。
本作も、そういう勘違いをされても致し方ないし。事実、上映コストの回収を計るために本作も特別料金設定されてしまっていて。興味の薄いムキには、その足枷が強くお勧めしたい本心を曇らせてしまうのだけれど。
当然、リアルタイムで彼を体感しておりませんが。送り出されたナンバーは勿論、カルチャーにおけるアイコンとして、あのジャンプスーツ姿は焼き付いているし。洋楽を耳にしていれば、カバー曲は勿論、彼の楽曲に寄せたようなナンバーも耳にして、映画でも直接彼に纏わるエピソードを扱ったものから、間接的にネタや枕話的なフリとしても扱われて。世代間でその度合いは違いがあるだろうけれど、「人物像」が出来上がっているところ。
良き時代のアメリカショービジネスの煌びやかな象徴、「大佐」と呼ばれるマネージャーに囲われたストレスで晩年肥満になったとか、良いも悪いもゴシップと大差ないその人に纏わりつく印象で対象の人物を印象付けているものだけれど。本作を見ていると、そんな色眼鏡的な先入観はブッ飛ばされる。
幼少期に耳馴染んだゴスペル等黒人音楽への親しみ含め、スーパースターとなっても英国で台頭してきた自作自演するロックバンドのヒットナンバー始め自分の歌以外にも興味を広げ、ジャンルを固定せず表現の幅を広げて。現代のポップスターの方が、より露骨なセクシャルアピールを売りにしている様な気もするけれど。リズムやビートに身を任せてのボディアクションからの「腰振り」が問題視されても、音楽に身を浸すところから爆発する感情表現を抑え込む事無く、歌と併せてのボディアクションで聴衆を惹き付ける。
K-popの売れっ子グループが、先日徴兵義務を果たして復帰しましたが。彼の全盛期の途中にも徴兵による空白期が生じて。歌手活動に、政治色は馴染まないという判断からマスコミからのコメントの求めはサラリとやり過ごして。キャーキャーと黄色い声についてはと、ファンかの反感ネタを拾おうと仕向けた質問には、「無かったら寂しい」と歓迎姿勢を見せて。
これも逸話としては入っていたけれど、興奮状態が最高潮に達したファンが身に着けているアンダーウェアをステージに投げ入れるとか、更には口づけを求めて客席から詰め寄って来るとか。その時の彼のリアクションまで映像で見せてくれるのだけれど、先のコメント通り、いやそれ以上に期待を裏切らない「神対応」を貫いて。
そういう映像と彼自身のコメントを挟みつつも、彼が、歌を本心から愛し生まれついてのエンターテインナーである事が、記録映画としてよくある秘蔵映像をつぎはぎしてナレーターが第三者的に語るのではなく、エルビス・プレスリー彼自身が、ショービジネスに入った頃のちょっとした歩みの振り返り的な前段と、コンサートに備えて、彼のバンドメンバーとリハーサルする様子を垣間見せる準備段階のコースを経て、「大佐」に囲われ強いられたラスベガスでのショーや、他に彼が若い頃から晩年までの歌う映像を見事につなぎ合わせたコンサート「会場」に誘われる。彼のコンサートで披露する歌をフルコーラスから、ワンコーラス、メドレーと自在に配したうえに、自身の言葉で語る音声や映像も挟み込む。エルヴィス自身の歌に彼が発する言葉も添えて主観的に仕立てられた一つのコンサートのテイにまとめ上げられている。
当然、彼について知っていれば、なお楽しめられますが。何も知らない人が、ファンである友だちに連れていかれて、いきなり歌を聴かされるのとは違って、ステージに立つアーティストの人となりを知りつつ楽曲が耳と目に流れ込んで来るので、一見さんでも不利益が感じ難く、すんなりと入り込めます。
そうして、1人のアーティストとして彼にスクリーンで対峙していると。歌に対する真摯さ音楽への造詣の深さ、声量の強さメロディー表現の豊富さ、バックメンバーや舞台技術者との阿吽の呼吸。そして何より、お客を楽しませたいという舞台上や舞台を自ら降りてのファンサービス。彼のずば抜けた、アーティストとしての気質や素養しか目に入らない中、見た後で彼の有名な持ち歌の一つと知った「ポーク・サラダ・アニー」を歌い始めから、歌い上げまでの一部始終を、本作流に音声と動きの完璧なつなぎで聴かせるところに差し掛かって。それは、バンドとの絶妙な「間」を計りながら、聴衆を彼の歌声で引き付ける彼の力量が前面に押し出される見せ場でしたが。
IMAXの音響の効果と有難みを感じつつ、本作は歌について訳詞が無く目や耳で受け取る事を「第一義」という姿勢になっているのもあって歌の意味自体はその時は判らずとも、彼のシンガーとしての表現力に心熱くさせられて。危うく、涙を落とす寸前で。なかなか、歌を聴いただけで、こんな感覚に捕われるなんて記憶にも無く、我ながら驚きでした。
タイトルにある「EPiC」って、この映画の主旨を表する英語頭文字を取ってはいるのだけれど。あらためて調べると、大元の意味は叙事詩ではありますが、時を経て英語圏の若い人の間で使われる、すごい、最高、やばいの表現なのだとか。
先に発表した劇映画「エルヴィス」の製作準備で、発掘された映像をデジタル補正したうえで、構成と曲を聴かせる際の細かな編集や音響設計をしてまで送り出した、バズ・ラーマン監督の想いが、作品タイトルに籠められているのかもしれない。
単に、記録映画としてではなく、アメリカ文化はもとよりショービジネス、とりわけロックミュージックに与えた影響力の絶大さに対する敬意。そして空虚を秘めた栄華の煌めき。その想いが終わり間際にU2のボノ氏に朗読して頂いた「詩」にも現れていて。最新の映像技術を持って蘇らせたこの映像作品を持って、この先の時代にまでも伝えたいという監督の志しにも敬意を表したい。
映画見終わって、もうすこし貢献しようかと思って売店を覗いたけれど。パンフも何も取り扱いが無く。エンドタイトロールの画面の両淵を飾る、ジャンプスーツにあしらわれそうなラインストーンとかを表現したラーマン監督印でもあるデザインがカッコよくて。あれを使ったグッズなんかも、有ったら良かったのに。ともかく、1週間の上映に都合付けられて幸せでした。興味のある方は、絶対行くべきです。
拙文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
シネマサンシャインららぽーと沼津 IMAX劇場
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