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2026年02月28日01:19

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「ブゴニア」を見て。〜ミツバチ(から)のわななき〜

命に関わる火急の状況下で自分を装い、相手の感情を操り関心を向けさせる「演劇的空間」を満たす演技巧者が発する熱と緊張の解放からの急転調を経て唐突に突き付けられる地球上に起こる光景の数々と云う、重箱の隅へと仕向けられていた視点が、広い視野へと強引に引き上げられる力技発揮にあって虚無的感覚が流れ込んでいて。シッカリ監督ご自身の色に染め上げて、呆気に取られつつも感服させられました。

大元である韓国映画は、知らず。製作のニュースを目にした時は米国に乗り込み、現地で得たミューズとの共作を重ねて監督の新たな隆盛期を既に築いているのに、何故オリジナルでなく、寄り道にも受け取れるリメイクに流れるのか。その疑問は、作品のシュチュエーションを知らなかった故なのでもあったと見た後にハッキリとしました。

「ブゴニア」とは、監督の出身であるギリシャの古代語で書かれた詩に記録されていたとする雄牛の死骸からミツバチが自然に生まれる信心による儀式なのだそうで。それは、自然の摂理ではなく根拠のない信念に由来する。

本作は、中米の如何にも閑散地にジェシー・プレモンスさん扮するテディと彼が目を掛ける自閉症的な従弟のドンが住む自宅から続く土地で養蜂を営んでいる様子から始まる。テディのナレーションで帰巣する働きバチが減っているという自然の異変への気付きから、その元凶が、地元製薬会社のカリスマCEОであるエマ・ストーンさん扮するミシェルが人間の姿をした宇宙人の侵略者であると頑なな陰謀の思い込みに、まず、作品タイトルが掛かっている。

ポツンと建った一軒家で、自身の妄念に突き動かされるテディは、ドンを従えてミシェルの誘拐を如何にか実行して、地下室に彼女を監禁し地球侵略を阻止すべく拷問も厭わない尋問が始まる。郊外の一軒家へ拉致される車中でエマさんの自慢の頭髪がバリカンで刈られて(宇宙人は、髪の毛で外部とコンタクトするという妄信から)、地下室の粗末な脚にマットレスだけを載せた寝台に縛り付けられた直後は、テディの犯行が営利目的では無い為やり取りが成立せず、交渉取引の糸口が掴み難く。対する犯行側にとっては、テディの言いなりであるドンが「弱み」である。

一般的な犯行規範に立たない相手にすり寄り、自分の保身を図りつつ。事態の成り行きを安全な方へ危険な状況をコントロールする為、特に攻めやすい「弱み」の主導を握るべく被害者としての弱みを押し隠して、言葉を駆使して相手に入り込み操る必要がミシェルには生じて。限りある地下室空間のうえに、動きも殆ど封じられた中、更に頭部を覆っている頭髪も取っ払われテディの思い込みからクリーム状の薬品まで塗りたくられ「装飾」無しのアイデアや思い付きを、声や表情にのせて発して。地下室の閉じられた空間を舞台とした、エマ・ストーンのアドリブ、土壇場発想的演技独壇場となっている。

彼女だけが「突出」するような印象にも取られるけれど、本作のタイトルの本質的意味根拠のない信心を現行一致で飄々とみせるジェシー・プレモンスの淡々としてブレない思い詰め具合という、正に地味な演技舞台の下地となるテディとしての実存あってこそ。

作り手によっては、人物の背景を深掘ってリズムと雰囲気を壊すところ、フラッシュバックでサラっと提示しつつも、短く挿入される白黒シークエンスでの「画作り」のテイストは、風刺画みたいに痛みや毒を含みつつ、ビジュアルとしても完成されています。視覚面でもテディの妄執が確固たることを裏付けられて、演技だけでない多角的構成で惹かれる。

しかし、ふたりボッチのオジサンの痛い妄想とユッタリ構えていられたのに。のどかな田舎の一軒家が、「悪魔のいけにえ」的な世の安寧を崩す巣窟と看破された瞬間、その一撃と共に、それまで見て来た印象がズレ動く。あのミシェル、エマ・ストーンさんの場当たり的に見えた「言葉」は、何処までが自由発想に拠るものだったのかとか。単に、一つの人格が脅迫の場に置かれていただけではない、表現が層となって重なった様な錯覚が仕込まれていたみたいに受け取れて。

そうこうして、翻弄による少しの動揺を整理している隙に、監督のヨルゴス・ランティモスさんは、アッサリと大外刈りを仕掛けてヒトを見据えていた視線は天上世界でこの世を預かる存在へ視線をフイに向けさせて。妄念に囚われた「儀式」に執着して、ミツバチを戻そうなんて摂理に反した事を考える存在は、地球の摂理上要らない存在である事を示して。

恐ろしい光景に息を飲む一方で、すべて物静かなその「画(絵、活写)」の冷めた目線は、糾弾とか正論を振りかざすものではなく、愚かさやそこにまつわる哀しみもひっくるめて容認しているものに写って、きっとモトネタの映画には無い独自色なのだなぁと決めつけています。

拙文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
シネプラザサントムーン シアター1にて

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