mixiユーザー(id:20808806)

2025年12月21日23:46

91 view

「ペリリュー 楽園のゲルニカ」を見て。〜戦友の支えで生き延びた細きペンが描き留めた国家に省みられずに生き抜いた同胞の記録が、残された者への慰めでなく懸け橋となるまで〜

私も同名の漫画原作の存在を、知らなかったのだが。三頭身キャラクターのうえに、主人公田丸均の表現に至ってはメガネレンズ上に、黒味の瞳ではなく窮状を訴えるかの逆カッコ「><」が直接貼り付けられていて。噂に聴こえる戦争の狂気とか見る方の耐性が試される描写とか、私同様想像出来ないムキが多いでしょう。

しかしながら、作品の「見た目」を超えて、戦場に送り出された兵士が、壮絶な戦火を潜り抜ける事の身体的、精神的な荷重はもちろんの事、軍隊ひいては国家という対面や枠組みの中で個人の感情は「体制」の中で抑圧されて。そして真実は都合の良い事実に作り替えられる。対戦国からの投降の呼び掛けも、排除され残された者達は牽制し合ううちに互いをすり減らす。

単に、敵との交戦で心身を損傷し合う悲惨さや南国の島の環境下で飢えや伝染病を潜り抜け、塹壕や穴倉で治療を尽くせない隣で横たわっていた同胞が死体となって虫がたかっているという兵士の過酷な体験から「悲惨さ」を強調して訴えるに留まらず。戦争による「統制下」で、「お国の為」と目標、幻想を強いる事で、兵士のみならず彼らの親族含め国民を惑わし陥れてゆくのか。本来は、統べられる人民に尽くすのが国家の枠組みなのに、そこを逸脱した権力が、如何に軽々しく平民を愚弄し、命を奪ってゆくかを誰の目にも判り易く作っていて。PG12の規定に留まっているので、興味あるお子さんがいらっしゃるのであれば、同伴を躊躇うべきではないかと。

対戦国の勢力を削いで戦局を持たせるためだけの玉砕目的で、太平洋上の南国の島に主人公田丸均は配属される。同期でありながら身分としては田丸より出世の上等兵で、銃撃の腕もたち誰からも頼れる吉敷佳助は、「共に生きて、本土へ帰ろう」と、ひ弱な田丸を戦場でも庇って固い友情で繋がっていた。田丸に声を充てるのは、最近頭角を現している板垣季光人クンで、吉敷役は中村倫也さんの担当で。今年、入りの寂しいアニメーションも体感しているけれど。それよりは、明らかに入場が多くて、作品の顔としての貢献を果たされて。それぞれの役柄に相応しい、声の表現でした。ただ、彼らを取り巻く日本軍兵士達を受け持つ声優さん達もキッチリとした仕事をされているのに、作品公式ページでは、全く触れられてないのが残念。まあ、パンフを買いなさいという事ですかね。

余談が過ぎたので、本筋に戻します。作品冒頭、荷車を引いて食料運搬をしていた田丸ともう一人の兵士が米軍の爆撃機の空爆に合って。飛来に気付いて二人とも、道路下の物陰に逃げ込むのだけれど。もう一人の兵士は、足元を滑らせた勢いで頭を打ち付けて亡くなってしまって。田丸は、軍役が終わったら家業の定食屋を継がず漫画家を志望していて。ペリリュー赴任中も、軍務の合間に手帳に作品のアイデア画を書き留めていたりする。それを知った上官が、田丸に「功績係」を任命する。それは、本土で帰還を待つ遺族に向けて、死亡報告と共に亡くなった兵士の最期が「如何に軍功の高いものだったか」経緯というか、美談として遺族を慰める記録を作り上げる仕事であった。

戦時下の「死」ではあるのだけれど、直接の交戦でないのにも関わらず。勇ましく、銃器を構え戦地を駆け抜け鬼畜米兵を数名たおして「天皇陛下」万歳と散ったと書き記して。荷車で、田丸が亡くなった初体面の彼から入隊の経緯を聴かされて。祖父が「戦地で追い詰められた最中、お国の為に、敵兵を蹴散らして亡くなった」事を誇りに自分も役に立ちたいとかたった直後の事故であったのだ。そして田丸が、初仕事として、先の「最期のお話」を仕立てるのだけれど。その祖父の話も、もしかしたら功績係によるものだったかもしれない。

名もない一兵士のちっぽけな話ですら、「組織掛かり」ででっち上げられる。本作の原作者自らが脚色を相当して、エピソードを絞ったと聴きました。3DCGによる米国兵器の描写で、爆撃機の爆弾投下口から、田丸らが標的にされるカットを撮って細かい拘りも挟みつつ。南国の楽園が、交戦による爆風が消えた後、死体が覗く海面が赤く染まっているとか、やつれる兵士の役作りや人体損傷とか実写表現では難しい箇所もアニメーション表現の強みを見せますが。ともかく、想像していたよりも交戦場面は短い印象。

一万人居た兵士が、米国軍の圧倒的兵力によって34人にまで減って。少数となった田丸ら日本兵たちが、米国軍から察知されない様に、身を潜めて本隊からの指令を待って耐え忍ぶ間にも、「戦争」が現地の兵士達の運命を如何に弄んだかが示され引き付けられる。

身を隠し本国からの指令を待つ間、忍び込んだ米軍基地で拾った新聞には日本が敗戦を受け入れたと書かれているも敵の捏造を疑うのだが。投降すべきか、本国からの連絡あるまで残った勢力を維持し待機し続けるかで意見が割れる。

米軍に殆どの同胞が、せん滅された直後から隊の命令を適当にやり過ごして自分本位に生きる上官が居て。軍規を軽んじる違反者を炙り出すためのツリかと疑うフシも当初あったものの。戦火が交わされる事が無くなって時間を経ると、「軍隊」という組織の体裁を維持する事に疑問を持つ者と、敵に降伏する等天命に背くのはもっての外と他者を牽制する者たちの均衡を崩した時、同胞同士で傷つける事態を招く。

敵対国との交戦で命を落とすのは勿論あってはならないけれど、本編後半に引き起こるこの事件も、個人が当たり前に抱く感情はもとより、情報を遮断し、思考を都合の良いカタにハメてしまう戦争状態の本質が現れている。

南国の島に残された兵士にとっては、絶望ばかりが続く無限地獄から抜け出せない状況が続くかの様に見えるところ。本作の原作者である漫画家が、自身の職業を主人公田丸に託した意義や意志が発揮されて。「功績係」として、当たり前に描き留めてきた同胞たちの事が、湾曲や脚色することなく、ありのままが「活かされる」とき、長いトンネルの先に光明が刺すのと同時に、過酷な環境を生き延びた事がやっと報われた安堵から目尻にちょっと込み上げる熱いものがありました。

しかし、その一方で、それでも軍を預かる隊長として取った行動に、また、胸が痛くもなって。よくぞ、映像化に漕ぎつけてくれて。目の当たりに出来て良かったです。

拙文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
シネプラザサントムーン シアター5にて

5 6

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2025年12月>
日 月 火 水 木 金 土
 123456
78910111213
14151617181920
21222324252627
28293031