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2025年02月16日22:53

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「ゴールドフィンガー 巨大金融詐欺事件」を見て。〜80年代香港のバブル下の定かでないアイデンティティは、姿が判らぬ本当の黒幕の威光を透過するプリズムに過ぎない哀しさ〜

同じく80年代の香港を舞台にした「トワイライト・ウォリアーズ」と見るべき作品の公開時期が偶然にも重なってファンには堪らない年明けであった。

「トワイライト」の方は、伝統のカンフースタントの再興が、巧い具合に醸されたノスタルジーと男同士の熱い絆が絡まって性別年齢関係なく受入れられたけれど。対する本作も、前半散りばめたコメディ色が、事件の全容解明と共に係わった者達の粛清、抹殺の虚無漂う非情感へと転じるノワールもので、ベテラン俳優の演技の妙味が堪能出来て満足なのに、作品の存在が「トワイライト」の影に入り込んでしまったのが、勿体ない。

原題通りの邦題なのだけれど、サブタイトルを付けても郷ひろみさんのあの歌とか、加藤鷹さん「方向」の印象もあってなのかはこちらの勝手な推測だけど(007までは遡らないだろう)、一般の方達の鑑賞衝動には働き掛けることは出来なかったみたいで残念。都会の名画座とか2番館では絶対2本立てが組まれるだろうから、なんとか本作にも目に触れる機会を作って欲しい次第。

実際に当時香港で起きた事件をモデルに、脚本を書き上げたらしいです。海外で事業に失敗して、身ひとつで香港に上陸したチャンが、水道も引かれていない二束三文の宅地を高値で金持ちに売りつけたのを機に、バブル景気の波にも乗って害虫駆除のペーパーカンパニーを振り出しに、巨大企業グループを形成し上陸当時街中で見上げるだけだった巨大ビルも手中に入れるなど莫大な富を得る。「指に触れるものすべてが金になる」と、言われるまでには、剛腕トレーダーら実力者や出資者を、時に賄賂や痴情に応える「献上」とか汚い手段も使ったチャンであった。そこに、汚職対策独立委員会(ICAC)の捜査官ラウがビルに乗り込み腹心らを含めチャンを連行して行く。かくして、チャンとラウの十五年に渡る捜査の攻防が始まった。

チャンにはトニー・レオン、ラウには、役名通りのアンディ・ラウさんを配する。当時、共同脚本家の一人だったフィリックス・チョン氏が「インファナル・アフェア�掘廾瞥茲�20年振りの両名優の共演を実現すべくお膳立てされた本作。製作の知らせを聴いた時から指折り数えて待ちましたが、再びの顔合わせが見られて、ホント嬉しい。

冒頭の方で、お二人の仕事に就く発端の紹介を兼ねてキャラクターの性格や境遇が語られて。「インファナル」シリーズでは黒に染まっていたアンディさんですが、準備万端で、しょっ引く為に金満ビルの社長室の扉を開けた時の自信溢れて正義感も眩しいストレートな笑みに対して、相手の心の隙間に付け入る様な裏心を悟られまいとするあやふやで陰りも帯びたトニー氏のほほ笑み。ラウ捜査官に「手錠は、かんべんしてくれ」と配慮を求めるチャンだったけれど、次の場面では、手錠のうえに腰に鎖まで巻かれて連行されるチャンの姿に変わるクスグリも入った互いのジャブ交換があって。取り調べでは、ラウの家庭を調べ上げたチョウが、お目こぼしを狙って娘の進学費の肩代わりを持ち出して、互いの探り合いで二人の緊張高まる演技の駆け引きも堪能出来ます。

でも、見せ場のウエイトを占めるのは、トニーさんの方ですね。捜査過程で、事件の元手となる資金がどこから調達されたかの「見立て」を再現される流れで、タイの麻薬地帯やロシアの裏社会との屈託を見せる辺りは、衣装替えやコマ落とし調に見せ方が変えられるうえに演出の「狙い」を汲んでトニーさんも砕けた感じでおどける硬軟使い分けた演技の幅でもってチョウの人物像に濃淡を加えてゆく。

自社企業の株価を操作でつり上げて、チョウら一味が富を得てこの世の春を迎えたかの狂騒の絶頂の中、音で盛り立てるのがボーイズタウンギャングによる「君の瞳に恋してる」のカバーソングで。「トワイライト・ウォリアーズ」で掛かるJポップは、当然耳馴染みがあって時代感も伝わってきましたが。この洋楽も、当然知っていたけれど香港でも時同じくして流れていたのかと察しつつも、懐かしの歌でまたも感慨にふけってしまって。

ここまでは、経済犯罪を郷愁感も配しながら、オフビートなユーモアの味付けもあって受け手も余裕で見守っていたけれど。チョウの犯罪立件へ見通しが立って見えて来ると、ノワールものの非情感へと転調して見る側にも緊張の糸が張りつめる。

本作を、「良し」と受け止めるか否かは、この金融詐欺事件の全体像ひいては株価の操作を成し遂げる「闇資金」の存在が明らかにされない事への捉え方にある。目に見えて判るこの事件の首謀者は、チョウなのだけれど、一国二制度、貿易中継点である香港の成り立ちが、「彼」自身に重なって。時流を読み、策を練る。中国大陸が手を引いてイギリスが統治する狭間で、難民が上陸して思うがままに出来た「自由」があったけれど、あくまで返還までの限られた猶予があればこそ。

チョウの犯行も束の間の戯れ事で、将来永劫の保障は無い。立件を妨害しようとラウと家族の身に危険が及ぶ場面もスリリングではあったけれど、チョウの直接の尺金にも見えず。香港が英国と中国間の駆け引きで、統治の実体を得ず束の間の栄華を享受した如く、チョウ自体も踊らされた存在に写って。彼を操る本当の黒幕も、どちらかの国で枕を高くして眠る有力者に違いないのは想像に難くなかろう。

熱い絆と郷愁がもたらす感動はないけれど、こちらもノワールものの非情でビターな味わいで返還前の香港へ思いを馳せていて。15年目に、ようやく判決を迎えるにあたって、長い間くらいついて来た事を、呆れたふうに言い放つチョウに対するラウの返しのセリフの詳細を忘れてしまったのは痛いのだけれど、アンディ・ラウさんがトニーさんを受けて立つ位置に控えてくれていたお陰で、正直者が報われる図式が成り立って話の救いになっている。

感想をまとめる前に、記事でトニーさんと「月夜の願い」で共演していたアニタ・ユンさんが、裁判長役で顔見せしていた事を知りました。香港映画好きとしては、とんだ失態。出演があったのなら、前もって記事でも教えて欲しかったです。

拙文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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