他人を見下すかの狂騒的な笑いではなく口元が緩むような可笑しみと、被災地の復興の現状や関心薄くなった世間へ向けての主張を一方の立場から押し通すのではなく、東北外のよそ者達も招き入れ双方の立場を取り持つ平衡感をもって描かれる。脚本家と監督の持ち味を打ち消すことのない「マリアージュ」と相成りました。
宣伝で云われている、東京のサラリーマンが、三陸海岸を見下ろす家賃6万円の4LDKに移り住む「新生活カタログ」的な話で終始するのではなく、それはあくまで話の入りで。作品の時代が、2020年のコロナ禍で。リモート出勤を良い事に、菅田将暉さん扮する西尾クンは釣り好きなのもあって、夜中にネットで物件の案内があがるや否や明け方の内には現場に到着する入れこみ様。それに戸惑ったのは、町役場勤務で上司より周辺の空き家活用の方策確立を仰せつかって、試しにと不動産のサイトに自己物件を登録した大家でもある井上真央さん扮する関野百香(ももか)であった。
こちらも「お試し」でサイトに入居募集をあげて素早い反応を貰った事への驚きもあったのだけれど。百香としては、役所の仕業でコロナ感染を広めたとあっては立つ瀬がないのもあって、好奇心旺盛で他者との距離を詰めて来る西尾に困惑と動揺を隠せず。7日間の隔離を申し付けられた西尾クンだが、海がすぐそこに在っては巣籠なぞしておられず。マスクとグラサンで顔が判らないからとタカを括って早速釣り三昧の生活を送るも、過疎地とは言えよそ者への関心の強さと地方ならではのネットワークで、「関野家の空き家に、誰かが居る」と噂されるのに7日も掛からず。
舞台となる三陸の海岸の街とよそ者の西尾を含めて住人と暮らしぶりを知らしめる前半は、コロナ禍ならではの今となっては過剰な「対応」故に、東京から来た西尾に対しての反応や憶測が増幅されて誤解が広がる一方、西尾クンの目線から、そこに住む人達の気質や事情が垣間見られて。コロナ禍をどうにかやり過ごせた今、行政への批判とかは抜きにして、当時の対応が、「恐れて暮らさざるを得なかった」とは言え、大袈裟で回りくどいものだった懐古が、地元民とよそ者が食い違いによる交流の可笑しみをより引き立てて。そして、時折挿入される美味しそうな地元の幸は、「孤独のグルメ」以上の飯テロ破壊力を炸裂させます。空腹を刺激されつつも、穏やかで優しい心持ちで見守っていられる。
後半、西尾の上司である小日向文世さんの「鶴の一声」から、官民一体で空き家解消プロジェクトが発動となって、図らずも西尾クンは、地元自治体側の窓口である百香と共に「仕事」にあたる運びとなって。東北の地に住む百香なので他人には吐露し難い「過去」があるのだけれど、空き家の持ち主の「想い」を汲んで丁寧に対応する西尾クンを只のお調子者の趣味人から見直すのだ。
東北震災が題材にはなっておりますが、西尾クンと百香が組むプロジェクトを発端に、被災側と外地に住む者の互いを見る印象の違い。そして物的、インフラ的な回復が図られたとしても、心に負った傷は、スイッチを切り替えるように簡単に明日から切り離せるものではないし、立ち直りを外から強要するものではない事を、決してウエットな感情に訴えたり、訴えるような声高な姿勢に変調したりせず、前半からの可笑しみを維持しながら、チヨコっとラブの要素を込めて気付かせる。
見ているこちらは、段々と中村雅俊さんの役に立場が近づいていて。若い当時、小津安二郎監督作品における、笠智衆さんと原節子さんの心情は、経験も足りないセイか判り難かったけれど。時を経て、そして何より、こちらも体感した時代に根差して生まれた本作を通して、漸く、家族の関係性が判るようになったのだと実感すると共に、最後の方で、中村さんと菅田将暉さんの、町の人達との話の中にサラッと先の気付きを踏まえた今の時代ならではの「家族のカタチ」に触れられていたのは、聴き逃せませんでした。
作品に合わせて演者が変わるのは当たり前とは言え、「クラウド cloud」とはうって変わって、役柄の性格がガラっと変わると共に、アゴ周りにお肉も付けて菅田将暉さんへの親近感は今回増しましたが。何と言っても本作は、百香役の井上真央さんに尽きます。入れ替わりの激しいアオハル作品のヒロインと違って、「若さ」の輝きは無いけれど、聡明に裏打ちされた相応な容姿に、生きた蛸を〆る生活感に過去の出来事故独り悲しさにくれる様子。そして、大家さんを寮の管理人と同列と見做すと、「めぞん一刻」を読んだ世代からすると、西尾クンが舞い上がるのも良く理解できるというもの。
そして、我が国の音楽界にありがちの俳優業との二足のワラジを履くアーティストの一人
竹原ピストルさんは、作り手達東北人の心情代弁も託されるほど大事なポジションに預かって、重責を果たしております。劇中、西尾クンに振る舞う自家製塩辛と白ワインの「マリアージュ」は、身近で手に入るもので何時か試してみたいです。あと、劇中で「私、祈ってます」のカラオケで歌ってみせますが、飲み屋のオヤジのノドにしては、当然ながら聴かせますぜ。
拙文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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