「今時のヤツらは」とか、口にしようものなら時代の波に押しやられてしまっている証拠でしょうけれど。親しくなると互いの立場も関係なく、お喋りで喧騒的なやり取りとなる若年の輩には耐えがたいであろう、気遣いと自意識の高さ故による沈黙と、他責であるのに、自身の運の無さと起こった不幸を胸の内に仕舞い込むかの自虐性。それらが、ペーソスやユーモアとして受け取れる、ちょっと前の世代には、共感出来て居心地の良い作品世界が、北欧まで復帰を望む声が届いたのか、再び目の当たりに出来た事に、喜びと感謝の拍手を送りたくなる。
私のアキ・カウリスマキ監督作鑑賞歴の始まりはVHSビデオテープでの「レニングラードカーボーイズ ゴー アメリカ」を取っ掛かりに、都内の劇場での「愛しのタチアナ」となります。なので、多少とがっていた頃は追いかけられていませんが。「PERFECT DAYS」のヴィム・ベンダース監督と並ぶ小津安二郎監督崇拝からの画角を殆ど動かさず、そして必要以上に語らせず、捉えたその場の空気を紡いで編み出される「間」から、「やるせなさ」やら「おかしみ」が伝わって。ほぼ単一民族で、暗黙の了解をコミュニケーションの基礎とする我々日本人観客には、親和性が高いうえに、どこかひと昔前で時間が止まったかのそれぞれの作品背景に郷愁というのも暮らした事ないのにヘンですが、まったく異なる欧州が舞台なのに馴染む感覚が沸くのです。
これまでと変わらない作風でありながらも、登場人物が携帯(ただし、ガラケーだけど)を所持して、ネットカフェでパソコンを通して(我が国にある様な、閉ざされた個室ブースではなくお店のノートパソコンを客席で一時だけ借りている)職探しとか、細かいところでは、「今様」になっていましたが。
あまり動じないカメラが捉える作品世界の人々は、喜びや悲しみを爆発させるかの声をあげたり表情を崩したりせず、機嫌悪くはないのだなとなんとか見做せるほど表情の変化が乏しいショットが積み重なってゆくうちに、失業だとか、アルコール依存症や抜け出せそうで出来ない孤独だとか、どうにもならない社会的事情に、個人で何とかするしかない悪い習慣や境遇に折り合いを付けようと顔には出さず向き合う過程を追いかけていくうちに、素っ気なかった人達を捉えるショットは、祝福と肯定感に溢れる。絵画と違って、ストーリーの経過で目に写る場面の意味合いが変わってゆく。まさに、映画ならではの「味わい」を81分に凝縮してくれて。あらためて、よくぞ、監督戻ってくれてありがとうと伝えたい。
ヘルシンキを舞台に、もう若くはない男女が、仕事に追われる日々にあって、互いに惹かれながらも、失業やら、「えっ」て、出かかる声を何とか押し留められた些細すぎる行き違いを経ながら二人と、女性が途中引き取る犬一匹(監督の愛犬だそうです)と、安定した先行きも見えない将来へ向かうスタートラインに並び立つまでを見守るのですが。
「恋の成就」に向けて越えねばならないハードルなんか、全く設けず。ラブロマンスであれば、盛り上がりのポイントがあって、そこで二人の気持ちの揺らぎとか表現させず。アルコール依存の気がある男がクビになるのは当然だけど、女性の方と言えば、ことごとく運悪く失業するのだけど。1度目の失業は、同僚の女性が頭の固い経営者に一緒に盾突いて、劇中数少ない怒りと団結を感じる箇所だけど、2度目は、お気の毒も良いところで。ただ、引いて写しているから、切実さよりも、間の悪いジョークに見えてきます。
二人とも食べて行くのに苦労している訳ですが、どこか切実な感じが迫ってこないのにもこの監督の手法と云うか、姿勢が現れています。それは、登場人物に肩入れしないし、政治や国の政策を直接的にも言及したりはしない中立的な目線で撮っているのでしょう。
作品を撮っている間の「現実」を、これまであまり感じさせなかったのに。本作では、登場人物らが聴くラジオを通して、ロシアからウクライナへの侵略の状況が挟まれていて。直接的に政治に声をあげなかった監督の代弁者のように、主人公の女性は、ラジオの放送に向って否定の言葉を放つ。いつまでも己の誤った行いを正当化して、武力行使の愚行を続ける為政者に対して、映画の中の男は、惹かれた女性と口論の末、アルコールを断つとか愛する人の為の成長を見せるだとか見せ場を設けたりせず、独りあっさりと悪い習慣と手を切る決心をする。家族がアル中で苦しんだ過去がある女を思っての行動が、ごたくを並べず踏み出した潔さが、泥沼の紛争の当事者との批判的対比にもなっているような。
そのように、多くを語らず、見せ場になるところを意図的に外しておきながらも、ぶっきらぼうで、不器用な感じに見える二人に親しみと応援の気持ちを抱かしてしまうのが、カウリスマキ技法(マジック)。連れている犬の名前がチャップリンで、枯葉が落ちた歩道の向うへ歩いて行く二人の後ろ姿が、名付けられた映画史に名を刻む名匠の作品に重なって。その行方が、希望の光がさし続けているものと思わずにはいられない。
拙文にお付き合い頂き、ありがとうございます。
角川シネマ有楽町にて
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