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2020年05月04日22:30

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 鬱々として書いたら更新停止ですか



 恥の多い一夜でありました。

 ベタベタとしたピンクにベタリとした赤色を混ぜたような光りの下、私は横たわっておりました。

 その上には女が一人。 私の両肩の辺り、両足の外側にその四肢を差し込みながらもユラユラと私の上で風に流れるように揺れているのです。

 鼻腔をくすぐる酒精。 赤ら顔の女。 そしてまるで湯を流し込まれたように熱くなっている私の身体。

 ああ、一体全体どうしてこうなっているのだろう?

 ですがそれはひどく間の抜けた想いであるのです。

 事実、すでに女はアルコールによって人としての理性を捨て、淑女としての恥じらいすらも投げ捨てて私を求めているのですから。

 どうして私にそれが断ることが出来るのでしょう? 

 なぜなら私もまた血が沸き立ち、それが一部に集中していたのですから。

 そしてその場には二匹の獣だけが存在していた。
  


 ひどく生臭く それでもひどく魅惑的な香り。 私はそれにかぶりつきました。 

 いえむしゃぶりついたのです。 酒と濡れそぼった果物。 独特でありながら原初の衝動を刺激する禁断の快楽の芽。

 すすり、舐め、転がしても決してはかじりついてはいけない 矛盾の果実。

 瑞々しく、私の唇とその周りをぬらしていきます。

 それでもそれは枯れることなく湧き上がる。 少しだけ塩辛くそれでも湧き水のようにあとからあとから出てくるのです。

 溺れてしまいそうだ。 それでも私は口を離すことができない。

 まるで二日酔いに苦しむ朝。 水と味噌汁を渇望する宿酔者のように。

 それでも限界は来ます。  

 定命の使途、ただ渇望にだけ生きて生活することなどは出来ない。 

 名残惜しくもそこから口を離すと、女はひとしきりに高い声を出したことですでに息を荒げています。 

 私もまた、感情に走らされたことで息切れしている。 一瞬、私は本当に獣になってしまったのかとすら思えてしまうほどに。

 …いいえ、それはあまりにも恥知らずな思考でした。

 だってここには獣しかいないのですから。 着飾った女も、キザにインテリぶった愚かな男、人間とて所詮は獣なのはどだい当たり前ではないですか。
 
 ほら、こんなにも恥ずかしげなく、欲望に塗れた私達が獣でなくてなんというのでしょう?

 重ねた唇をこじ開けてヌラヌラした内臓同士が絡みついて粘液が混ざりあう。

 この一時、この部分。 だけは私と彼女が一つになれた。 その事実が私をますます狂わしていく、愚かにしていく、そして獣にしていく。

 互いの肌からにじみ出る汗が花粉のように互いの身体にこびりつき、その感触すら不快に思うと同時に心地よくて、夢心地へと進んでいく。
  
 暴力的な情欲と向かい合って殴りあうような内面的感情のぶつかりあいが私の乾燥した心根に何とも言えない潤いが充満していく。

 それでも ああそれでも それをはじき出したいと思うことは罪でしょうか?

 普段ならおそるおそる問いかけてからでしか動けない私はただ獣となりはてた暴欲のまま彼女を突き刺す。

 動けば動くほどにそこは広く、締めつけ、私も唯一の吐き出すことが出来る箇所へとその想いは集中していきます。

 そしてそれは訪れました。 

 まるで肺病患者が自身の肺胞で拵えた鬱屈と恐怖、そして病気そのものが交じり合った血液のようにドロリとしたそれは吐き出すように飛び出したのです。

 細っこい根菜を切り取るように、あるいは似られた葉菜が目減りするように、私の中の何かが一部無くなる感覚。 そしてその代償として得られる何ともいえぬ喜びと安堵が私の頭蓋を刺激しました。

 ああ…しかし。 私はここで大きなる過ちを犯したことに気づいてしまったのです。

 伝染病患者がマスクをするように、あるいはクシャミをする際にあえて余人のいない場所を目掛けてする程度の常識を私はわきまえております。
 
 いいえ。 むしろそのような気遣いが出来ることを私は密かに自慢に思っておりました。

 ですが、今夜、私はひどく酔っていたのです。 いえいえ、言い訳にもなりませんでしょう。 しかしながら私はこのような失敗をしたことはなかったのです。

 酒を飲みすぎました。 心が寂しかった。 着古しの着物の隙間から入る寒風が温もりを求めさせたのかもしれません。
  
 ただ私は呆然とかつて自身の中にあったものがドロリと漏れ出ているのをアルコールでぼやかされた頭で見ているだけでした。

 ああ、もうどうにでもなればいい。

 呼吸は多く。 身体は重い。 倒れこんだ布団の柔らかさがとても心地よい。
 
 横になった私の顔のすぐ横で女はいつのまにか寝入っています。
 
 そんな女の垂れた前髪をそっと掬い上げ、天井を見つめれば。 闇に慣れた視界の先でくすんだ天井板がありました。

 このまま逃げてしまおうか? それともいっそのこと女を殺してしまえば。

 なんとも恐ろしいことを考えてはいましたが、やがてそれも代謝されたアルコールの効能によってどんよりとした眠気へと変わっていきます。

 な〜に大したことは無いのだ。 何事も。 

 ただ一切は過ぎていくのです。 風のように。 埃のように。 そして男女の好悪でさえも。

 いまはただ眠ればいい。 流されたのならばただそのままに過ごしていけばよいのです。

 いずれ皆、遅かれ早かれ黄泉の旅に出て三途の川を渡るのです。

 私もこの女もそしてこれを読むあなたも死んでいくのですから。
 
 全ては流れ流されて、後には何も残らない。


 



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