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2015年12月20日02:15

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100年前のハルビンのペスト禍

ハルビン関係の本を細々と探し続けていますが、1910年のハルビンの傅家甸を舞台にした小説が見つかったので読んでみました。
1910年には傅家甸でペストが流行した年です。なので明るい内容にはならないとは思いますが、昔の傅家甸がどのように描写されているのか知りたかったのです。ちなみに作者は1964年黒龍江省の生まれ。本の発行は2010年なので、同時代ではなく歴史ものとして書かれているわけです。

タイトルは「白雪烏鴉」。「白い雪とカラス」という意味です。
中国の小説は古典からしてそうなんですが、一人の主人公を追っていくよりも、群像劇になっていることが多いです。章が変わると違う人物の話になり、さらにまた違う人物が出てきて、でもどこかでつながっていて…。この話もそうで、次々といろいろな人物が出てきてます。家族ぐるみのこともあります。

そうして登場人物や家族がいろいろ出てきたころ、1910年の秋ですが、ハイラル〜満州里あたりからたびたびハルビンに来ている毛皮商人が傅家甸の路上で死んでいました。次にその商人がいつも泊まっている旅館のおかみさんが突然発病してまもなく死にました。
それから傅家甸では次々と人が死んで行くことになります。

実際その年のペストの流行は大変なもので、傅家甸を中心に、毎日数十人〜数百人が亡くなったと言います。
それで、登場人物もあっけないぐらい死んでいくのです。あまりにあっけなくていきなり死ぬので、嘆いているヒマもない、かえって描写が淡々としています。

ペスト菌は北里柴三郎が鼠から発見しましたが、この本の中でもそれが書いてあります。しかし傅家甸に日本人が来て鼠をつかまえて調べましたが、鼠からペスト菌がみつかりません。

そうこうする間にも死者は増えていきます。ちょうど清朝が末期の時代で、まず傅家甸が封鎖されて他の地区との往来が禁止されます。そしてハルビンを通る鉄道も停止になります。
そして、伍連徳という医師が派遣されてきます。伍連徳は実在の人物で、ケンブリッジで医学と文学の博士号を取り、北洋陸軍の医学堂に招かれた人物です。

伍連徳はハルビンに来て病人を調べたところ、これが「肺ペスト」だということを突き止めます。通常のペストは「腺ペスト」といって鼠を介して感染します。しかし肺ペストは患者からの飛沫感染で広がります。腺ペストよりも感染力が高く、死亡率も高く、罹患すると短い間に死んでしまいます。
それで伍連徳はまずハルビンの病院の医師たちにマスクをすることを指示します。しかし病院にいたフランス人医師は肺ペストだということを認めず、ペストは鼠から感染するからマスクは無意味だと主張してマスクをしなかったりします。
結局そのフランス人医師自身が感染して肺ペストだったことを認めることになるのですが。

さらに伍連徳は病人の隔離を徹底します。人々にもマスク着用を奨励します。
でも死者は減りません。
焦りが出てきたころ、傅家甸の死者を埋葬する場所に行ってみると。

もう12月になっています。ハルビンは冬には零下20〜30度にもなります。そのため、土がすっかり凍りついて、埋葬のための穴を掘ることができません。棺が埋葬することができないまま並べられていたのです。しかもどんどん増えていくのです。

驚いた伍連徳は、これらの遺体をそのままにしておいてはいけない、焼くべきではないかと考えます。
中国では土葬が普通なので、遺体を焼くことに抵抗があります。死者の身内は承知しないでしょう。伍連徳はハルビン政府にかけあい、北京に連絡をしてもらって遺体を焼く許可を願い出ます。
その理由を北京の政府が理解してくれるかどうか、許可が下りるかどうか…。
しかもちょうど年越しの時期です。いつ許可が来るかやきもきしながら新年を迎えます。

そうしてもう待てない、無許可でもとにかく遺体を焼かなくては…と思い詰め、油まで用意して実行を計ろうとした頃にやっと許可が出たという知らせが来ます。
こうしてすべての遺体を焼きつくして、しばらくすると死者の数が減っていきました。死者の出ない日はなかったのが、ついに一人も死者の出ない日が来ました。

前にハルビンに関する本を読んだとき、傅家甸のペスト禍のことが書いてありました。それを思い出してその本を出してきて、ペストに関する部分をざっと見直してみました。
そうしたら、この小説に書かれているペストの経過はほぼ歴史的事実と照合するようです。傅家甸には伍連徳を記念する胸像もあります。
さらに、このペストの原因も書いてありました。
感染源は、黒龍江省西北部〜モンゴル〜シベリアにかけて生息しているげっ歯類、タルバガンでした。タルバガンの毛皮は質が良くて喜ばれるので、この地域で毛皮を取ってハルビンに売りに来る商人がいたのです。そこから感染が広がって行ったのです。

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