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2019年03月03日22:47

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詩『ありふれた誰かの物語』

今日もベッドで目を覚ます

慣れた手つきで目覚ましを止める

中ニの時に買ってもらった物だ

付き合いはもう十年。 どんな友達よりも長く付き合ってる

「ああ、面倒くせえ」

この言葉はいつからだ?

少なくともあの目覚ましよりも昔だ

昨日脱ぎ捨てたズボンを履く。

爺ちゃんみたいにシワシワな裾を手で伸ばす

中古屋で買った数千円のブラウン管テレビには薄っすらと淡雪のように埃がおちてる。

後で掃除するかと言い続けた嘘も期限が過ぎて忘れた。

六畳一間の自室は付き合いたての面倒臭い女のように一週間前よりかは変化してるんだろう

だがどうでもいいことだからそれには気づかない

『なんでわからないの?』

曖昧な笑みも口先だけの『ゴメン』も必要無いだけ遥かにマシだ

でも心は何かイラついてる。

アパートの扉を閉めて、錆びつき始めた鍵穴に鍵を通す。

同時に心の扉も施錠する。

今日は晴れてる。

『面倒くせえ』

同じように仕事に向かう。



そんな俺でも彼女ができた。

化粧っ気のない地味な女

でも文句をあまり言わないだけ、俺にはお得だ。

テンプレのような休日のデート

どこかで聞いたような『口説き文句』と羽のように軽い『愛してる』

そして他の女と変わりゃしない穴の感触

それでも家事に炊事に性処理。

それだけで済むのだからしょうがねえ

しこたま飲んで起きた朝、隣の女はすでに起きてる

ナメコと豆腐の味噌汁の香りがする

俺の嫌いなネギは入ってない。

まあ悪くはねえと心で呟き、外には『ありがとう』と気を使う

『よかった』と笑う女。

毎度毎時、緊張気味の俺の顔の筋肉も少し緩む

『まあ、悪くねえ』

本音を内と外に溢して、悪くねえ溜息をついた。

そういえば『面倒くせえ』って最近言ってねえ



広くなった部屋に立つ。

女の荷物はとうに無くなった。

携帯を握りしめる。

慣れて油断して忘れた頃にやってくる錆付き

鍵受け取り『さよなら』と言われたファミレス

去りゆく背中見ながら

昔の女に言われた分からず屋と言う言葉を思い出す

だから女は俺から離れた

二度と取り戻せない一方通行のそれ

同じように携帯のアドレスも消して電子のゴミ箱に投げ捨てる。

他人の部屋みたいにどこにあるかもわからない小物を自室の中で探しつづける

別れてもまた引き合うこの言葉が独りになった俺から溢れた。

『ああ、面倒くせえ』













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