いまだかつてこんなことをしでかしたヒップホップのグループがいただろうか。
サンプリングもなく、ラップもなく、“声”さえも入っていない。生演奏のインストゥメンタル曲だけのアルバム。
基本仕様としては、これまで彼らのアルバムに収録されていたインストと比べて大きな変更点はない。イージー・リスニングにしないための配慮からか、主旋律のメロディは若干分かりやすくされてはいるが、基本はマニー・マークのキーボードを中心とした、お馴染みのまったりしたスロー・ファンク路線である。もちろんファンクばかりでなく、ダブ・ベースを効かせた“エレクトリック・ワーム”、キーボードとジャジーなパーカッションを絡めた“フリーキー・ヒジキ”、ロック的なダイナミズムをともなったスペイシーな“オフ・ザ・グリッド”など、多彩なスタイルが持ちこまれている。ただし今までビースティーズの音楽に接してきた自分としては、特別意外性も感じられず、むしろオーソドックスなバンド演奏にとどまっていることに驚かされたくらい。スクラッチもなければ、実験的な音響トラックもない。そう、本作は基本的に3人+1人(マーク)の普段着な演奏を、奇をてらわず素直に録音したものになっている。つまり、表面的には多彩であれど、かつて『
ハロー・ナスティ』で実践したような、「新しい音を生み出してやる!」という気概は、本作では微塵も感じられない。
彼らがこれを録るに至った経緯はよく知らないのだが、一度自分たちの演奏をしっかりとした形で記録しておきたかったのか、あるいは録り溜めたインストものをここらで一挙に放出しておきたかったのか、いずれにせよごく個人的な動機が大きいと思われる。結果として、非常に趣味性の強い、パーソナルな作品集にとどまってしまった感は否めない。
決して悪いアルバムではない。マイクDのドラミングはどことなく味があるし、雑多なアイディアをまとめて楽曲に結実するビースティーズならではのセンスを随所に感じ取ることができる。
しかしセンスだけではまだ弱い。個人的なことを言ってしまえば、わざわざこのラッパー達によるヘタウマな演奏を聴こうとする必然性みたいなものが、僕にはもうひとつ見えてこないのだ。
残念ながら、彼らの作品ではもっとも手に取る機会が少なくなってしまっている。
BGMには最適かもしれないけど。
ログインしてコメントを確認・投稿する