日本映画専門チャンネルで放送したのでAVC録画し、見直しました。“見直した”という表現は間違っていますね。つまり見終わってミクシィの日記を検索するまで、自分が10年前の2016年8月に見ていたということすら思い出せていなかったのです。そして、2時間16分見ている間中、僕は初見の雰囲気でした。←ども、しゃないヤツですわ。
つまり10年前に見たときにはだるかった、登場人物たちをじっくりと追うカメラの動きが、今回は特別なリズム感を持って僕を乗せてしまったのでした。田中絹代が42歳の年に制作されています。三船敏郎は32歳でした。宇野重吉は38歳。そもそも溝口健二が54歳なのでした(58歳の若さで他界)。
そんな田中絹代が、十代の娘から“50婆”のお春(写真3)を演じます。10年前には、それが鼻についていたのですが、今回は無理してるなという程度でした。僕自身が80歳に近づいている(あと半年)ということも、今回の翻意に大きな影響を及ぼしたと思えます。“多数の羅漢像の中には自分に馴染みの顔が見つかるはず”という言葉が、今回のキモでした。
ロケした羅漢寺は滋賀県彦根市にある天寧寺(てんねいじ)の羅漢堂だそうですが、僕の住む目黒には五百羅漢寺というものがあり、この像の並び方が瓜二つに思えました。←実際に羅漢寺というものはいずこも同じなのかな。ジェミニさんによると、“彦根市の天寧寺と目黒の五百羅漢寺には、像の配置や造りの面で共通する背景がある”とのこと。
そんな部分も今回のプラス要因だと思われます。しかし僕が決定的に心変りをしたのは、勝之介(三船敏郎)の処刑を知ったお春(田中絹代)が、小刀を手に持って母親から逃げるシーンでした。前回は、“さっさと捕まえんかい”とげんなりしていたシーンを、今回は“この女は死にたくないと思っている。だから逃げながら刀を刺すことをしない”と見ました。
つまり、すでに50近い婆さんのお春を冒頭に見ているわけです。そこからの回想シーンで、意中の人が斬首されたのに自害しないという部分が大きい。つまりお春は、勝之介の“意中の人を見つけて再婚せよ”という遺言にすがって、以後の人生を展開するのでした。だから50歳となっても、途中島原に売られようとも、なんとしても生き抜くのでした。
こうなると、勝之介以後の男性遍歴も興味深い。とくに扇屋弥吉(宇野重吉)との再婚話が、ほんの10分で悲劇的結果となるあたり、圧倒的でした。老いて寺の前で三味線を弾くお春は、なんとしても勝之介以上の男性と巡り合わないと死ねないのでした。この人生観の180度違う解釈によって、僕はこの映画を褒め称えたいと考え直しました。
この映画はヴェネチア映画祭で国際賞を取ったようですね。「羅生門」は“グランプリ”でした。そのあたり、溝口健二は悔しがったのでは?←すんません、下衆の勘繰りです。しかし、日本国内では対して評価されなかった(キネマ旬報ベストテン9位)けれど、ヨーロッパではおおきく評価されたようです。←「羅生門」もキネ旬では5位ですわ。
てなわけで僕は、様々な人間模様を楽しみました。とりわけ沢村貞子演じる笹屋女房お和佐が痛烈でした。スケベ心丸出しの亭主(進藤英太郎)もいいけれど、あの女房お和佐のキャラがあるからこそ、この映画は輝くという気がします。一方で、笹屋の番頭(?)文吉(大泉滉)あたりは、なんか漫画チックでおもろない。人物像の程度が低いのです。
そういう意味では、お春の父親を演じた菅井一郎なんか、一世一代の役どころですね。何度も何度もお春に期待するあたり、ダメ親父の典型に思えました。←親父としての思い込み具合、よう分かりますねん。とことん最後までつきあう母親(松浦築枝)には、どっちかいうと“呆れ”てしまいます(笑)。
とはいうものの、この映画を“名作”だとか、“いい映画”だとか評価することを、僕は好みません。もっと人物造形の巧みさとか、深さを褒めましょう。三船敏郎みたいに15分程度で斬首されたり、宇野重吉みたいに10分も出てこない役柄が、お春には“輝ける夫”だったわけです。その思い出を胸に、50になっても男を漁るお春、すごいじゃありませんか。
人間、生きるという方向にシフトすれば、どんづまりの人生で終わろうとも、他人にとやかく言われることはないのです。そういう生き様を呈示してくれた溝口健二に感謝したいし、それを10年前には読み解けなかつた僕は、しかしこの10年でそれなりに“進化した”のだと納得しています。10年前の自分を、しっかりと今回受け止めて生きます。
ただ心配なのが、ブルーレイに収録されている素材は、日本映画専門チャンネルで放送した素材と同じなのかどうか。僕の目には、ビデオソフト用のアナログテープから単純にデジタルに変換しただけの素材としか思えません。ぜひ「近松物語」のように、1コマ1コマていねいにレストアしたものであってほしい。それなら買います。
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