結婚という幸せの絶頂が直ぐそこにありながら、その場から急にいなくなり、失踪後11か月後に本人を名乗る人間から電話があり、以後、足取りが全く取れない事件である。
この事件は概要を共有すれば「ああ、あの事件か」と思い出し、未解決だったのかと驚かれる方も少なくないかもしれない。
とは申せ流石に30年も前の事件なので、概要を述べたい。
■概要■
平成6(1994)年2月19日、福島県南相馬市(当時は原町市)の歯科医院で歯科助手として勤務していた増山ひとみさん(当時21歳)が行方不明になった。彼女は結婚を3週間後に控えていて、この日は土曜日だった為、午前が最後の勤務だった。退勤時に院長夫妻、同僚たちから花束を受け、和やかなムードで退社した。13時10分(注・拙稿ではこのコーナー、全て24時制で表記致します)に自家用車に向かう。
この日の午後、ひとみさんには予定があった。先ず入院中の祖父の着替えを預ける為、母親から病院に寄るように頼まれていた。その後、JR常磐線・原ノ町駅近くにある、婚約者の家族が経営する食堂を手伝いに行き、夕方から友人と会い、食事する約束をしていた。
婚約者は予定の時刻になっても食堂にひとみさんが来ない為、ひとみさんの実家に連絡を入れている。
これを受け、祖父が入院している病院に母親が連絡をしたものの、病院側からひとみさんは来ていないという返答だった。
ひとみさんは自宅に戻らず、以後行方不明になった事になる。
職場と自宅のほぼ中間にある、R6沿い、原町市高見町のガソリンスタンドとコンビニのホットスパーの駐車場(注・地方、郊外ではコンビニとガソリンスタンドの併設は少なくない)で彼女の自家用車(スズキ・アルトワークス)が同僚に目撃されている。この同僚は用事があり、ひとみさんの見送りは出来ず、弟のアルバイトの送迎の為、たまたまそのコンビニを訪れたところ、見つけたそうだ。
ご両親は翌20日の夕方になってもひとみさんが帰宅せず、行方が掴めない為、原町署(現・南相馬署)に捜索願を提出した。
クルマの中には上着のダウンジャケット、財布、花束、婚約指輪が残されたままだった。但しクルマの鍵は発見されなかった。
警察の調べによれば、19日の13時40分頃には既に駐車場にはあったとのことだった。20日になってもクルマは動かされた形跡が無い事を原町市署が把握している。
家出、事件の両面から捜査を試みるが、未だに彼女を発見出来ていない。
翌平成7(1995)年1月4日、本人を名乗る不気味な電話がかかって来た。受話器を取ったのはひとみさんの妹さんで、女は最初に「おねえちゃんだよ」と言うが、別人の声だったので、聞き返すと「ひとみです」と名乗ったが、訝しく思った妹さんが聞き返すと、電話は切れてしまった。この電話は同じ局内の公衆電話からかけて来た事だけは警察の調査で判明している。
以後、手がかりは全くつかめていない・・・。
実際の電話がこちら▼。ひとみさんの妹さんが録音したものだ。
https://www.youtube.com/watch?v=PPvVOtP0hk8
この声で事件を思い出した方は多いと思う。概要は良く分からないまでも「お姉ちゃんだよ」事件か、と思い出したかもしれない。
■不吉な前兆■
2月5日に結納を済ませ、三週間後には結婚式でウエディングドレスを着る積りだった、幸せ絶頂の彼女がなぜ失踪してしまったのだろうか。
実は彼女の婚約が決まった平成5(1993)年末から毎晩のように深夜0時から明け方まで、一時間に一回のペースで無言電話がかかって来た。
これはひとみさんを標的にした事はトウシロの私でも想像がつく。
実際、ひとみさんが失踪してからはぴたりと止まったからである。
更に自家用車に誹謗中傷の落書きをされるといった事を知人に相談していた。発見当時もまだその時の傷が残っていた。
ひとみさんと婚約者との交際は長くはない。
ひとみさんは高校卒業後、神奈川県の電機メーカーに就職するが、1年ほどで退職、地元の歯科医院で働く。ここで偶々友人と入った食堂で婚約者と知り合う。婚約者は中学時代の同級生だったという。ふたりは意気投合し、交際が始まった。両家からも異存はなく、4〜5か月で縁談がまとまったほどだ。
ひとみさんは妹と共に飲食店を手伝いに行くなど、関係は良好だったといえよう。
ここまで来るととんとん拍子に決まった印象だが、以後ひとみさんと婚約者との関係は順風満帆とは言い難い状況になっていく。
失踪3週間ほど前の1月25日の昼休み、Oと名乗る若い女性からひとみさん宛に電話があった。
このことは後日原町署が捜査の為に預かったひとみさんの手帳(日記)から判明した。
日記には走り書きで次のように書かれていたという。
「Oという女からTELあり。(婚約者には)『切れていない』女がいたらしい。もしか(して)の勘が当たった。彼はそんな人は知らないと否定。嫌がらせだろうと。彼を信じよう。」
(※カッコ内は引用者)
この電話の事実を裏付けるものとして、失踪した2月19日、ひとみさん宛に女性と思われる声で不審な電話があった。声のトーンは低く、年齢は分からなかったものの、ひとみさんとのやり取りを見て、余り親しそうな感じではなく、いわくつきに見えたという。ひとみさんは時計を見て、電話の女性と待ち合わせをしているようだった。
これだけ事件が濃厚にも拘らず、ひとみさんが行方不明後、行方不明、失踪者を取り扱う、テレ朝系特番の「奇跡の扉 TVのチカラ」のレポーターからのインタビューに対し、婚約者は
「彼女を捜す理由などない。彼女は自分で失踪したのだと思う。」
と言い放った。原町署が暴露した、ひとみさんの手帳に書かれた婚約者の浮気を疑うメモについてぶつけると、
「事実ではない。そのような話はひとみさんから聞いた事がない。」
と真っ向から否定した。それだけでなく、彼は4月に代理人を立てて、増山家に対し、結婚を白紙に戻し、結納金の返還と本件で休業せざるを得なかった為、その休業補償を求めて来た。
この変遷ぶりは何を意味するのだろうか。
その約7か月後のあの有名な「おねえちゃんだよ」の怪電話を増山家が受電するのである。
果たしてこの変遷ぶりの意味と真相は、そしてひとみさんの行方はどうなのか。
それにつきましては次回にしたい。
最後まで御覧頂きまして、ありがとうございました。
(続く)
写真:行方不明の増山ひとみさん。行方不明当時と同じ服装
ひとみさんと同タイプの愛車 スズキ・アルトワークス
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