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2023年11月23日23:43

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「正欲」を見て。〜「共感」なんか、他者とのズレを晒される罠。同じくそれを避けた人と流れついた「生 (セイ)」の安らぎ〜

タイトルを読み上げた響きと、宣材に添えられた「衝撃作」の触れ込み。そして出演の1人が容姿端麗で好感度高い新垣結衣さんと来て。今年、都会の一部の劇場で再映された「氷の微笑」は、主演女優に焦点を当てる邦題が付けられていますが。原題を訳すと「本能的衝動」で、あれをご覧になった方は判りますが、女性容疑者の奔放な「性欲」を指していて。

またしても、書き始めが長いのだけれど。音読みで誤解を呼ぶタイトルで、新垣さんが、人には言えない衝動を抱えていると聴くと、稲垣吾郎さんの前で、シャロン・ストーンばりに、アンダーウェア無しのタイトなスカート姿で座って脚を組み直したりして誘惑しちゃうのを想像もしがちですが。

そんな想像は全く無駄で、題名の読みを耳にして受ける各人が内に秘める基本衝動を起点に、今を生きる人たちが辿り着くべき居場所や心の在り処を示していて。年齢制限のレイティングにも掛からず、決してヘンな下心から興味を惹くものでは、決してございません。「愛にイナズマ」とは対照的に熱量は低いながら、「普通」が人それぞれである認識が進んでいる筈の世の中なのに思いやりが他者を傷つける狂気となり、一方では社会から振り落とされぬ様に「自分と違う者」故、周囲に浸食されぬよう壁を築く。結果、各々が孤立を深める様相を静謐なトーンの中、見る人につき立てて示唆に富んで必見の一本となっています。

原作者の朝井リョウ氏が書かれている本自体は、自分の読書歴にはありませんが。映像化作品にお目に掛かるのは、これで3本目となります。突出した人物に焦点を当てるのではなく、何かの出来事を切っ掛けに複数人物の係わりを通して主題に迫って行くのが共通のスタイルと見受けます。前二作の高校生、就活の大学生と同じ「土俵」ではなく、本作では、立場や性別年齢、住んでいる場所も三つの括りで分かれる人物が、次第に接点が作られて行く過程で、現代を生きる人たちに備わっている筈の「多様性」の素養が、各自の生き易さに直結していないどころか、他者との関係を築くにあたって安直な「相互理解」には至っていない事を示してゆく。

盲点を突かれたという意味の「衝撃」が登場人物それぞれの状況で波紋となって広がり、関係の無かった人達が、各々直面する事態の輪が円環となす本編の終盤に映し出される情景は、希望ある先行きを示すとは言い難い冷めた現実なのだけれど、部屋を立ち去る者の心中には、すがる望みが残っているのに対して、それを見送る者には、自身の価値への拘りに縛られて身近な存在を受け入れられなかった虚無感をありありとさせる。

本編で描かれる「人には伝え難い衝動」は、見て貰うしかないけれど。傍目からすれば、モテない筈無い新垣結衣さんが、そういう苦しみを抱えるワケが無いというのが、そもそもの偏見なのだろうけれど。彼女扮する、広島在中のショッピングモールの販売員の桐生夏月は、磯村勇斗さん扮する佐々木佳道と、同級生の結婚式を機に、中学で机を並べた時以来の再開を果たす。一方で、東野絢香さん扮する神戸は、対人関係で特に男性と距離が近くなると過呼吸を起こす女子大生なのだが、学祭の企画で、整った容姿でありながら周囲と距離を置いた構えのダンス部員の佐藤寛太さん演ずる諸橋に惹かれていく。

そして、横浜に暮らす検事である、稲垣吾郎さん扮する寺井啓喜は、不登校の独り息子の小学生を巡って妻が取る対応に不快感が抑えられないのだが。職業柄も輪を掛けてか、「世間の常識」で計って、そこからはみ出す事を「良し」とせず。つまりは、常に大多数に自身を置く事で安心を得て、当然、他者もそうあるべきと「目線」を変えられない凝り固まり故に、ある種の冷徹さを与える役柄は、もう「十八番(オハコ)」の領域。寺井の同僚として、宇野祥平さんが脇に控えていますが。一般には「普通」と受け取り難い事件に関連する事例を、寺井に紹介するくらいで、さほど見せ場らしいところは無いのだけれど、多くの言葉を介さずとも、登場人物にとっての「寄り添い役」として献身されている。

作品の「肝」としては、広島と大学生のそれぞれの二人が辿る経緯にあります。「普通」ではないのを自覚し、覚られまいと防御を努める故に縮まらぬ他者との距離がもどかしくも辛く。そして踏み込まれない様に置かれた他者に対して、差し障りの無い様に防御に入るも辛抱が表情に現われただけで、他者への理解を相手を受けいれる「緩衝」とすべきところを取り違えて、心をえぐる鋭い「凶器」に代えて攻撃に転じる豹変の恐ろしさ。

ダイバーシティとか、横文字ばっかり踊るけれど、多数派には相容れないばかりに、「普通」という白日に晒され他者との差異を明かされてしまうのを避けて日々を送らねばならない者にもたらされる辛さや、そこに差し込む暖かな安息が、演技と自然な展開構成で惹き付けられるうちに露わになって来る。

本編の終わり近く、新垣結衣さんが語る心情は、ようやくたどり着いた居場所を踏みにじられた哀しみに表立っては受け取れるけれど、聴き手が稲垣さんである事で、「生」に向き合うに当たって自分を知る存在が、原動力になるかが対比される。部屋を去る、彼女の歩みが、なんと美しく力強い事か。見送る宇野さんの眼にも、そう映っているのであろう。

拙文にお付き合い頂き、ありがとう御座います。
シネプラザサントムーン 劇場��にて

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