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2023年11月05日22:56

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「愛にイナズマ」を見て。〜正しさと、煩わしさと、心強さと〜

主演、助演と作品ごとポジションが変わり、間を置かずにお目に掛かっている方々でキャストが固められている、邦画ならではの背景がありますが。出演される方達の取り合わせを製作発表で耳にした時点で、ストーリーも特に気を掛けず、見ると決めていました。

その際は、タイトルの意味など考えもしませんでしたけど。今にも、土砂災害で倒壊しても不思議はない、停電で真っ暗になったオンボロ平屋の畳敷きの居間を雷の閃光が走った、まさにその瞬間、闇に浮かんだその姿は、迷い多い生涯で「拠り所」にしたいものだと、つくづく思い至らせて。

ついこの前のコロナ禍に沸き起こった私達日本人社会で見かけられた「正しさ」を盾にした正論のぶつけ合いに代表される苛立ちにあって、社会も家族も煩わしく、自分自身すら見失いかける中、登場人物たちの纏まり無いと思われた家族と部外者一名が、譲れない「信条」を賭けて立ち上がる姿に胸を熱くさせられた末に、「術中にハメられた」と判っていながら、涙腺が溢れ掛けそうで。もっとラジカルで、ぶっ壊れた作風を想像していたのに、裏切られるとは。

ロックダウンだとか感染状況が酷かった最中にも、「茜色に焼かれる」をすぐさま製作して、コロナ禍で大勢に流される中、市井の人達を通して、世の中に一石投じた石井裕也監督。現在、別の監督作も公開されて、製作者からの信頼の熱さとフットワークの軽さも現れておりますが。「茜色」は、尾野真千子さんの役の設定と言い、突拍子の無さに反感を覚えるムキいらっしゃいましたっけ。

今作では、主人公に映画監督を志す20代の女性花子を据えて。日和見的で、掴みどころのない女性プロデューサーと業界生活が長く作り手の「志し」よりも如何に製作ウケに沿った主観が勝る年上男性助監督の二人の意見に、予算わずかのデビュー作実現まで、花子が耐える様子が前半描かれる。作り手と同じ職業を割り当てる事で、花子が石井監督の分身や代弁者にも見えて来る。彼女に業界の「正論」をかざして立ち塞がる、MEGUMIさんと三浦貴大さんが、恨まれるのは当然な憎まれぶりを見せて執拗なくらいに描かれるけど、冗長さを感じない。

夢破れた花子は、その間、運命的出逢いを果たした、空気を読まない食肉工場の工員の正夫を意気投合の勢いから連れ立って、幻となったデビュー作の創作動機となった、父親独りが待つ実家へ十年ぶりに帰省して、同じく家を離れた兄二人も呼んで、実在の家族をキャストに実現できなかった映画を、即席助手の正夫と共に花子は撮り始める。

幼少の頃、子供を省みず家出をした母親について、そのワケを伏せて育てられたのもあって父に対して不信感を払拭できず花子はわだかまりを抱えていて。前半で、正夫も巻き込んだ映画論争でも、カメラの前では、その人とは別の「自分」が見える趣旨の主張があって、それが生きて来る。後半の流れは、実家での映画作を通じて家族の歴史が明らかになって、明かされる事実に、タイトルからは想像付かない、王道ホームドラマの趣向が凝らされている。

それで溢れようとする涙を、素直に受け入れられるのは、本編前半での、映画製作で振りかざされる業界見識や、正夫が巻き込まれるコロナ禍でのマスクする、しないを巡る街角でのイザコザとか、タテマエだけで押し付けて、物事の本質を見失わせる「正しさ」を装う事への反発。家族の本当の姿を知り、「なかった事」で済ませられない気概が家族四人と部外者1名に降りて来て、立ち向かう場面があったから。関係なさそうな前半のベクトルと交わって、物語はうねりを伴い加速し高まって。弛む尺は、まったく御座いません。

思えば、今年見た佐藤浩市さんは、総て父親的(「春に散る」は、横浜流星さんとは血縁関係は無いから)立場で、本作でも中堅若手に囲まれて頼もしい受け役。若葉竜也さんの弟役に並んで兄役は池松壮亮さんで、前述の家族で立ち向かって行く場面では、意を決した表情を見て、思わずライダーマスクを差し出したくなりました。余談が過ぎましたが、出て来た時は、ちぐはぐな家族だったのが、おのおのハグする場面では、温かさを醸し出す調和ぶりに、身近の存在がもたらす心強さが実感できました。

主たる鑑賞動機である松岡茉優さんは、直近の「騙し絵の牙」や「劇場」での、人物像がさだめられた原作ものよりも、オリジナル作品でのねじ曲がったクセのある役柄の方が、ワクにハメられない分、のびのびしていて見ている方も楽しい。前半から、父、兄弟に悪態をつく後半の変わりっぷりから、エピローグの船上での亡くなった者への追悼の表情と表現の幅の広さで見せつける。

花子の「運命のひと」にして、空気を読めない、それこそ精神疾患的匂いもする、宙に浮いたような正夫の演技で、前に見た作品とまた違う人物像を創り上げる窪田正孝さんも、松岡さんと対して全く引けを取りません。無骨そのものの佐藤浩市さんに、「ハグ」がもたらす実感を教える海辺での場面は、空気の様な正夫だからこそのさり気なさで、部外者でありながら「家族」にとって果たした役割が大きい。

タイトルは奇抜でも、多くの方に開かれていて、感激と共に迎え入れられるでしょう、多分。

拙文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
シネマサンシャインららぽーと沼津 シネマ9にて

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