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2023年08月14日22:48

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「Pearl パール」を見て。〜酪農フォークで一突き、薪割り斧を一振り。フィクションならばの凶行を、認めずにはいられない主演女優の目を引く感情表現の独壇場〜

鮮血に塗れた、頬に当てられた手先。その下に配した、デッサン調に処理された足元の倒れた者に斧を振り下ろす主演女優の全姿。まごう事なきシリアルキラーのお話です。

その手のジャンルの好事家では無いですが、R15のレイティングが示す通り、「括り的」には入っても、馴染みのない方が思わず目を背けてしまうまでは振り切っておらず。無気質な殺人鬼が引き起こす、殺傷損壊描写がひたすら続いて加虐気分をあおるものではないから、それが主眼の向きには物足りないかも。門外漢には、オスカー作品も排出するに至った先鋭的独立系スタジオの「目利き」に適った創意と、その中で息づく登場人物に釘付けでした。

とりわけ、フィクションだからこその許されざる凶行へと、自身の抑制が崩れるまでの内面の変貌。急速に親密さを増したと思ったイイ男の打算的な親切や、美貌で遥かに勝る信用を寄せていた親族にあたる娘の本心に秘めた下げすさみが、会話や相手の態度を経て、ヒロインが思い至るまでのその場の「空気感」の変わり様を目の当たりにするとか、先の映画としての表装からは、思いも寄らないところで感性を煽られました。

ジャンルへの印象から、いい加減に撮られていると思われるフシが強いところ。作り手の場面設定とか下準備から、その土俵に立つ演者の感情や表現の再現度の高さや相手のそれを受けてのリアクションの広がり。特にタイトルロールを演じるミア・ゴスさんの落ち込みや嘆きといった感情の底辺から、凶行へと我を忘れてしまう高まりまで、プロだから当たり前だけれど、良くぞ内面の硬軟や強弱が目に見えて表現できるものだと感心しきり。何度も、シツコイですが、不謹慎なジャンルでありながら、演劇的な面白味が堪能出来て、見逃さずに済んで幸運でした。

1918年、第一次大戦中のとある零細規模の畜産農家に、パールという女性が居る。良家出身で婿入りして来た旦那は、欧州戦線へ徴集されて。最近、便りも途絶えがちで生死も定かでなく。周囲との付き合いは隔絶する厳格な母親からは、立派な大人になった今でも干渉を受けて、半身不随で口もきけず車椅子に乗っているだけで意思表示が全く乏しくなった父の面倒を診つつ、世話をする僅かな牛や豚を観客に見立てて、自身が主役の歌と踊りの「ショー」を演じで、束の間悦に入ることで息のつまる日常を乗り切る彼女。

宣伝解説には、「少女」と見做されているが、パールは、ハタから見て充分「イタイ」大人の女性。だけれども、夢想の世界に逃避してやり過ごす事でしか出来ない、生き難さ、置かれた環境は、理解できる。往復の自転車移動が小遠征に等しい隣町に、彼女は出かける。父親の薬購入で母から託されたお金のお釣りで映画館の切符を買うあたり、小学生かよとツッコミたくなる。そこで掛かるショーガールの活動写真に、束の間現実から離れる彼女。今度は、「カイロの紫のバラ」の主人公セシリアを、思い浮かべさせて貰ったりして。

その際知り合う、映写技師というのが、ありがちな職人気質の爺さんではなく。欧州を放浪して来て身なりも整って、女性の扱いにも手慣れた感のグッドルッキングガイ。因みに演じるデビッド・コレンスウエットさんは、今後撮られる新スーパーマンに、抜擢されるのだとか。青田買い的意味合いでも、機会があったら本作をご覧ください。

余談が入りましたが、自転車遠征の途中のモロコシ畑に立つカカシを抱きしめても補えない、別の穴を埋める存在として、パールの閉ざされた生活に入り込む。更に、彼女にとっての別の転機は、金髪美人のうえ良家の娘で、何もかも恵まれた義理の妹から教えられた、将来映画出演もある踊り子オーディションの話。日常の妄想で、いちばんの踊り手と自負心が刷り込まれている彼女には、日頃の煩わしさからの脱却しか頭になかったのだが、果たしてパールは、まったく違う別の自分に変われるのか。

時代設定では、映画はまだ、トーキーでも白黒の黎明期ですが。本編は、50年代頃の映画の全盛期のテクニカラー風の天然色に画像が調整されて、スタッフ、キャストも筆記体表記で、「良き時代」の感じに設えて。冒頭、家畜舎の暗がり中にカメラを添えて、両開きの扉が開くと先述の色調に整った農家の庭先が鮮やかに目に入り込む。主人公パールの意識の逃げ場である、華やかな「舞台」の妄想世界を意識させる。オーディションの場面でも、独り舞台に立って居るハズが、切り替わると、バックダンサーを従えて異様にテンション高いパールの背景も過剰な位彩りがされて、内面で最高潮に達しているのが、痛いほど伝わる。

賢明な読み手の方であれば、オーディションの結果はお分かりかと思いますが。それを受けての彼女の変貌の一部始終を見せるシーンは、白眉でした。キッチンのテーブルに座ってだったと記憶しますが。相手が、戦場に居る夫に語るつもりで思っている事を曝け出してと振り向けられたのを受け取ってからが、真のパールの独り舞台で。セリフ回しはもちろん、独りよがりな思い込みはあるのだけれど、どうしょうもない現状に置かれた自分を憐れみ、凶行に転じるまでの怒りに達するまで、ミア・ゴスさんの独壇場で、引き込まれます。

お話の「オチ」を受けての複雑な心境を表情だけで、ミア・ゴスさんが見せるのだけれど。あれも、エンドタイトルが流れる間、ずうっとカメラが据えっぱなしで。「君の名前で僕を呼んで」での、シャラメ君の電話独り語りのワンシーンショットに匹敵する。自身のショットだけで、数分保たせられる、その演技技量というか、度胸、胆力には、すっかり参りました。

本作は、去年公開の「X」の前日譚であります。私の様に、未見でも全く支障は御座いません。「X」では、老婆の殺人鬼だったパールの若き日を描くのが本編で、ミア・ゴスさんは、その前作では、老人メイクをされていて。なので、若き日のパールに血肉を付けるのも、やり易いというか、必然だったのでしょう。「X」では、老パールに追われる若い娘マキシーンと二役だったそうで。目下のところ、80年代を舞台にした「マキシーン」で、もう片方の役のその後を撮っているのだとか。彼女に魅せられては、1作目含めて、見ないといけないだろうか。

拙文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
シネプラザサントムーン シアター�Δ砲�

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