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2023年04月27日21:12

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欠けた活字の本

古典ギリシャ語で読む『形而上学』が終わって『二コマコス倫理学』を始めたが、最近、あることに気づいた。たまに文字が欠けていて、その部分を補って読むのだが、違う文字を考えて意味が通じないことがあった。現代では文字が欠けているのは珍しい。まるで活版印刷みたいではないか。

そう思ってオックスフォード版の本の出版年を見てみると、なんと1894年が初版で活版印刷の中でも19世紀のものであった(『形而上学』は1957年なので60年以上新しい。こちらのほうが人気が高いので劣化が早く、新版が出たのだろう)。『二コマコス倫理学』は今から129年前の活版印刷が元で、現在のものはそれを写真に撮って平版印刷で製作されていると思われる。その元は活字なのでところどころ活字の一部が欠けてしまっているのだ。読む人も大学の哲学科の生徒など僅かなので、新しく版を作っていないのであろう。

私が若い頃は書籍のほとんどが活版印刷で、私の勤めていた専門紙も活版の輪転機で印刷していた。新聞の一面分の鉛の活字を運ぶ職人さんたちはみな力持ちだった。私が仕事をしている間にも時代は急速に変化していき、活版はほぼなくなった。TV番組などで時々名刺などを活版で作っている小ラボを紹介したりしているが、玩具でしかない。存在するあらゆる文字を大きさごとに鉛の活字で揃えること(超レアなものは作る)は容易いことではない。活字を拾って文を作る人たち(文選工)の文字に関する博識ぶりは素晴らしいものだった

ところでいつも書いているが、ギリシャ哲学の原文は世界の宝であり有名な著書はほとんどがネットで無料で閲覧できる。私は紙の本として所有したい思いから購入したのだが。となると、私が持っている本のネット版もやはり欠けているのだろうか、と気になり調べてみた。私の本では欠けている部分はネットでは流麗で完全な文字であった。原典は同じくBywaterが校訂した1894年初版と記されていた。すでにこのようにサイバー空間の優位性が明らかであるが、年月によって活字の摩耗したものが紙の本となって私の手元にあるということは逆の意味で貴重だと思う。人の一生も、そうした変化を示す小さな目盛りなのだ。もう少したてば、活字を目にしたことのある私は遠い歴史の中の人となるだろう。

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