mixiユーザー(id:17967252)

2023年04月15日15:20

21 view

最近読んだ本:M・ポングラチュほか『夢の王国』

M・ポングラチュ/I・ザントナー種村季弘/池田香代子/岡部仁/土合文夫訳『夢の王国―夢解釈の四千年』(河出書房新社 1987年)


 大部の本。三部に分かれ、第一部は、夢をどう考えたかについて古代から現代までの歴史的地域的概観、第二部は、夢に登場する事物のテーマ別解説、第三部は、古代の文献を中心に夢解釈の事例集となっています。第三部は、事典代わりに使えますが、通して読むのはたいへんなので略しました。第二部と第三部を見れば、どちらかというと、夢の書というよりは、事物が象徴するものについての本。古代中世が中心で、近代以降の夢に関する部分がフロイト、シュテーケルに留まっていて手薄なのが不満です。

 西洋、中東の領域については、その地域で書かれた膨大な夢の書をもとにして記述しているのが特徴。著者は序文で、「夢そのものが数千年来つねに不変であったという発見もまた驚きであった」(p8)と書いていましたが、夢に対する見方に関してもそんなに新しいものはなく、古代の習俗などの一般的知識を得ることができたのが収穫です。

 もっとも印象的だったのは、古代の残酷さ、野蛮さで、今日の人権意識からすれば、とんでもない行為が平然と繰り拡げられていたことにショックを受けました。例えば次のような文章。「君主たちでさえもが、戦いに勝利した王みずからの手で鼻や耳を殺がれ、目をくり抜かれ、皮膚をはがれた。ときには手足を切断した者たちを檻に入れて見世物にしては何週間も全国を引き回した」(p35)。

 ちょうど今読んでいるノエル・ドゥヴォーの「バベル」という古代世界に触れた小説にも、「言い触らされないために舌を切る」というような表現が出て来て、ストレートな非情さが共通しているように感じました。また「食人的(カニバリスム)モティーフは世界のあらゆる古い夢の報告から見出される」(p40)とか、「人肉嗜食の夢に実際のカニバリズムの『最後の余韻』を認めることはできないにしても・・・儀式的カニバリスムと関係づけることは、明らかに正しい」(p158)というような記述がありましたが、そんな夢を見る人は今は居ないでしょう。

 いくつか新しい知見を得たので披露しておきます。
まず古代エジプトについては、エジプト人たちが、故人に対して、今も生きているかのように手紙を書いていたこと、夢解釈師が魔術師や医者よりも優位にあったこと、すでに今から4000年以上も前に、最初の夢の書が書かれていて、それが『エジプト僧用聖文字の夢の書』に結実したこと。

日本では昔、長谷寺に夢のお告げを求めて大勢が詣でていたことが西郷信綱の『古代人と夢』で紹介されていましたが、エジプトのセラピス神殿に特別の部屋があり、そこでみんな眠って啓示の夢を待ったことが出ていた。ギリシアの医神アスクレピオスの神殿においても、至高聖所(アバトーン)で、病人が見た夢を解くことで治療していたという。そのとき使った寝台クリーネがクリニックの語源になっているとのこと。また1ダースもの病気に罹っていて、夢見するのにいろんな神殿を転々としながら、12年間さ迷ったギリシア人が居たらしい。面白いのは貧乏も病気の一つに数えられていたこと。

古代ギリシアの哲学者が、すでに夢について今日的な解釈をしていることを知りました。ヒポクラテスが、魂は睡眠中も考えたり感じたりする能力は保持しているが、感覚器官への繋がりが解離しているだけだと、現代の夢研究で「解離」と呼ばれている現象を指摘しており、またデモクリトスが、夢にはまったく新しい空想像を創作する能力はなく、既存の知覚に依存していて、かつて体験したものを何らかの形に変容しているだけと言っていること、またこれまでの本でも書かれていたことですが、エディプス・コンプレックスなどフロイトの夢解釈の多くは、アルテミドロスの著作にすでに見出されること。

ローマでは、国家によって雇用された「夢のスパイ」が、人々の夢を監視していて、見た夢について迂闊に洩らす言葉に耳をすませ、都合のよい尾鰭をつけて皇帝の耳元にささやくことを仕事にしていた、そのせいで、ローマ人は独自の夢の書を残さなかったという。

その他、エジプトの月の神トートが猿の姿で崇拝され、ギリシアでも狒々が月の女神セレネーの聖獣とされたりなど、猿と月との関係を指摘していたこと。昔習った漢詩で、猿と月がセットになって出て来たのがいくつかあったように思いますが、これは世界共通の感覚なんでしょうか。


 都合により、次回1回分お休みします。次は4月25日に。
0 0

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2023年04月>
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30