mixiユーザー(id:20808806)

2022年12月11日18:09

164 view

「蜘蛛巣城 4Kデジタルリマスター版」を見て。〜そこは、人が取り憑かれる欲と共に、絡め取られて果てる様を、陰影鮮やかに見せる城<ステージ>〜

TVに、ビデオ、ましてや配信ポータルに、作品の作り手達が脅かされずに、娯楽メディアの王座におさまっていた1950年代の映画全盛期の1本。真四角に近い画面に、白黒の映像で、現代の感覚からすれば、窮屈な画角で色彩の乏しさから、古臭く、今見るにはそぐわない様にも受け取られてしまいがちだけれども。デジタルで、思い描く映像を得る事の出来なかった時代だけれども。セットや画面に映る人員に掛けた手間暇と、何より、劇場に見に来る人達だけに向けられた、作り手の創意と心意気まで詰められているかの、当時ならではの「贅沢」さが、銀幕に溢れております。

時は、戦国時代。城主への謀反を企てた手強い敵勢を制圧した武将の鷲津武時は、盟友である三木義明と共に、城主の元へ討伐の報告のため馬を駆っていた。領内の「蜘蛛手の森」で、特有の天候による視界の悪さからか、二人は道に迷う。そこで、藁葺の掘立小屋で、糸車を回す奇妙な老婆に出会う。老婆は、鷲津が、謀反人に代って北の館の主の地位を得てやがて、蜘蛛の巣城の城主となる事。そして、三木は砦の大将を拝命して、やがては、彼の息子が、蜘蛛の巣城の城主になるであろうと予言する。

予言をデタラメと受け止めていた二人だが、城に戻ると、城主からそれぞれ、北の館の主と砦の大将を任ぜられるのだった。そこまでの一部始終を、鷲津から聴かされた妻の浅茅は、三木の息子が、予言を知ってしまうと、城主となる鷲津が危ういと、夫をそそのかす。

疑念と欲に駆られた鷲津は、自らの手を血で汚し、約束された「地位」を我がものにせんと、今度は、自身が謀反を働くのだった。

黒澤明監督と主演、三船敏郎さんのコンビ時代劇作といえば、「椿三十郎」や「隠し砦の三悪人」(「七人の侍」は、侍集団の1人と云う事で、並列を避けましたが)の様な、活劇に比重を置いたものを、まず思い浮かべるところですが。刀を持って、鎧を纏っていてもコスチューム心理劇といった趣が備わっていて。

荒涼とした山麓に設えられた蜘蛛巣城の全景や、写り込む場面は少ないけれど巨大な城門前を入ってから、城主が陣を構える中庭までの入り組んだ城内の構造物だとか、画面上の「合成」でなはない、明らかな実体感。北の館や蜘蛛巣城内部の、登場人物が、欲に囚われて、そそのかしたり焦燥したりする様子を見せる板の間も、撮影所に広々と大舞台が仕立てられております。

有名なクライマックス、乱城内の見張り台みたいな建物の小高い場所に居る、乱心の鷲津に向かって、下方から沢山の矢が放たれる場面で、画面左の三船さん演ずる鷲津の肩越し右側には、矢を構える下層兵たちが敷地上に密集しているのだけれど。美術セットも、エキストラも、明らかに「実体感」が、あって。映画全盛期で、予算も手間も掛けられた贅沢な映像。

60年以上前で、今の社会と違う時代背景に即した口語基調と、経年劣化なのか音声自体の聴き難さもありますが。冒頭と終わりの、廃れた城跡の映像に被る「諸行無常」的な主旨を歌詞に込めた男性コーラスから、頭から尻尾まで「様式」に貫かれている。

冒頭の糸車を回す老婆の登場と退場での、この世の者と思い難い不気味さに、鷲津の妻浅茅に扮する山田五十鈴さんのお顔は、能面の様に塗りつぶされていて。(テレビで「必殺仕事人」を見た時、元締め役の山田五十鈴さんも、そう言えばシッカリ化粧が施されていて。もしかしたら、素顔知らないかも)先の板の間での出番しかなくて、喋り口調のおどろおどろしさに、部屋の出口が真っ暗で、退出する様が霊界に戻るかのようで、鷲津に取り憑く幽霊のようです。

「天国と地獄」の誘拐犯からの電話を逆探知する会社社長の居間も、横広の画面目いっぱいの大部屋に、左右の空間を舞台の如く目いっぱい人物を動かしていたけれど。本作でも、芝居を考慮したセットで、役者も動かせば、カメラも空間を自在に動いて、先の老婆や、浅茅の妖気や狂気を、誰の眼にも写る様に、キャストもスタッフも、アイデアをデジタルの合成ではなく、その場での「再現」をフィルムに焼き付けたのである。

もちろん、現代であれば、コンプラの要請もあるだろうけれど、クライマックス場面で、主演男優に向かって、いくら弓道の選手に依頼したとはいえ、ホンモノの矢を放つ必要は無く、グリーンマットの前で、ちょっと死に直面する表情をしてもらって、空を割いて飛ぶ矢を書き込めばいい話だったりするのだが。でも、お蔭で、作品の説得力は、今も落ちてはおりません。

そんな、作品の為に災難な目に合わされた三船敏郎さんですが。この後、監督とは、数々の名作を輩出している訳で、よく仲違いとならなかったものだ。あらためて、本作を見ると、モノクロの映像に、太い墨で輪郭を描き込んだかの如く、怪しげな演者たちが、ぼんやりとした背景を彩ったのもあって、クッキリと、実在感を見せつける。なるほど、この見た目からして際立つキャラクターは、外国映画でも登用されるのも納得。

私は、この歳になっても読んだ事は無いのだけれど。本作は、シェイクスピアの「マクベス」の翻案なのですが、原作をなぞっていない分、作品本質を分かりやすく映像化した作品として、本国英国はじめ海外でも評価を得ているのだとか。我が国でも、この映画を原案とした舞台も、近々作られて、半世紀を経ても色褪せず。こんな、周辺事情からも、本作の見る人を引き付ける魅力を納得して頂けるのかなと。

拙文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
シネマサンシャインららぽーと沼津 シネマ8にて

7 8

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2022年12月>
日 月 火 水 木 金 土
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031