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2022年10月10日17:57

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「マイ・ブロークン・マリコ」を見て。〜どんなに高く遠く飛ぼうとも、越えられぬ最愛のヒトが去った穴。やり場のない怒りと無力を弁当と一緒にかっ喰らって、独り私は、明日への電車に乗る〜

一時間半にも満たない引き締められた上映時間を、飛んで、這いつくばって。自力ではどうにもならない、煩わしい社会的問題の影がさす中、掛け替えの無い相手を亡くしての、自責の念にかられた一泊二日の旅は、決してお涙頂戴的な感傷に染まることなく、無様にのたうち回る姿をタフに、クールに見せる。社会の裏側のヤバイ取引や拳銃とは、当然、無縁だけれど、ある意味、ハードボイルドな気概に満ちた、快作です。

業績至上主義のよろしくない会社で営業として勤めるシイノトモヨが、馴染みの中華食堂で昼食を取りながら視線を向けたテレビのニューズが伝えるには、小学生からの大事な存在であるイカガワマリコが、自宅のアパートから身を投げて亡くなったと。知り合った頃から父親から虐待を受け、家を出ても付き合う男から暴力を受けるマリコを、気遣い守って来たシイノは、再婚相手と暮らす父親のアパートを訪ねると、据えられていたマリコの遺骨を強奪して、2階の部屋のベランダから飛び降りる。マリコを、自らの手で弔うべく、彼女との思い出を辿りつつ、シイノは住み慣れた居所を後に旅に出る。

シイノの行為自体、端から見て、許されるべきものではないけれど。弔いの旅で、残された彼女が、マリコと過ごした記憶をたどって行くと、シイノが、包丁を向けてでも、遺骨を父親の元には置いておけない、過酷な「経緯」には、只々、胸を痛めざるを得ない。

そういう背景のうえに、自分を残してマリコが先立った事実が受け入れ難くて。シイノのスマホを開けば、命を絶つ前に、二人して出掛けた日の楽しさに満ちたやり取りが残っているし。映像らしく、旅先で、すぐ傍には、マリコの気配が、まだ残っているかのようなシイノの感覚が、可視化される。

ブラックな会社にあって、パワハラの意識なんぞ持ち合わせない男性上司に対しても、臆することない強さを備えたシイノに対して、持ち前の優しさや慎ましさに付け込まれて、男たちの暴行に晒され、精神的にも「壊れて」しまうマリコ。

マリコは、暴力を振るう父親との生活を強いられた為か、誰かへの帰属性が強まるも、結局は、自分本位の男が憑いてしまって。それを、シイノが、取り払う様な事が、しばしばあるのだが。弱いマリコは、「シイちゃんに、彼が出来たら、許さないから」と、我儘に言い放つかと思えば、「シイちゃんと居る時が、何の心配もない」と、信頼の情を投げかけて。対するシイノの方も、メンヘラ度を増すマリコを、鬱陶しいとしながらも、そんな彼女を受け入れ、献身的に尽くして来たのだった。二人の絆は、単なる「友情」の枠を超えている。

それだけに、シイノが、大切な存在を亡くした喪失の感覚のうえに、マリコを第一に考えていた自分を踏みにじられたと思い込む怒りや虚しさまで押し寄せて、負の意識に傾き、自身の存在意義に否定的な考えに捕らわれるのも、容易に伝わって来る。

マリコの遺骨を抱き、ベランダからダイブして、階下の川岸を転がり浅瀬に立つシイノ。鬼畜な父親宅の玄関に靴を置いたままで、遺骨を抱え、裸足で駆けるシイノと、衝動的で無謀な行動の中、凛々しさと、潔さが映える。

マリコの生立ちに、社会的に虐げられている事への糾弾だとか、大切な者に、先立たれたシイノの感傷に染まることなく、タイトな上映時間を、バタつき、抱え込めない感情の爆発で、加速度を上げて、凍てつく海風が吹き付ける崖淵まで、転がるように活写してみせて。向井康介氏と共同の脚本は、有名じゃないけど海外の映画祭で賞の栄誉を頂いております。出演者から、世間に知れ渡った印象以外の知られざる一面を引き出し、それを作品世界に落とし込み、イメージを広げる。脚本兼演出のタナダユキ監督は、去年の作品に続いて、予想を超える見応えを残して頂きました。

我が国の、ちっぽけで内向的なエンタテインメント市場の都合で、学園アオハルもの量産のサイクルがあって。ある程度認知された若手役者は、実年齢関係なく制服を着せられ続けて、なかなか出来上がった印象を崩すというのは、難しかったりしますが。インタビューで、ニコチンの無いタバコを小道具で用意して、ふかす練習をしたとか申していたシイノ役の永野芽郁さんでして。乱暴な口調も、「背伸び」なのかなぁって訝っていましたが。監督の期待像を、見事に体現しております。

劇中、旅先の食堂で、マリコへのお供え分も含めて、牛丼を2杯頼んで。編集もあって、一部始終は写さないけれど、シイノが、頼んだ牛丼全部を平らげるのですが。まったく別の話になりますが、麻生久美子さんを見染めた、「劇場版 モテキ」での、リリーフランキーおじさんとの「一夜」の後、朝方の吉野家で、牛丼をかっ込む彼女に、「強かさ」を見せつけられた記憶が強いのですが。それを、シイノ役の永野芽郁さんから、呼び起こさせて貰って。また、彼女の印象も、更新されました。

マリコ役の奈緒さんも、本作の取材で永野芽郁さんとの2ショットを見た限りでは、屈託のない現代っ子としか見えないのに。永野さんと、以前ドラマでの共演もあってか、シイノの生き様に影響を及ぼす、病んだ「運命のひと」として作品に焼き付けられて。尾美としのりさんは、同い年で、役柄が娘持ちってとこでも、此方と重なる分、露出は少ないとは言え、鬼畜ぶりが、ショックでした。

そして、本作で、尾美さんと並んで露出は少ないのですが、窪田正孝さん扮する、旅先でシイノと関わる、さびれた地方の岬をうろつく釣り人マキオが、良くない考えに、性急的に凝り固まるシイノに、当たり障りない立場を保ちつつ、「助け舟」を差し出す、良い働きを見せてくれて。シイノのヤサグレる気持ちに染まっていく我々観客にとっても、光明をもたらすあのセリフは、まさに「金言」です。

辛気臭ささを排除する、ハードボイルド風に、ささくれ立ったまま、突き進んでいった本編ですが。あらためて、ブラック企業に勤務する、いつもの日々に戻るシイノに、失いかけた確かな想いを、再び、心中に灯したのを暗示させる締めくくりが、また、心憎い。

拙文にお付き合い頂き、有難う御座います。
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