澤井繁男『ユートピアの憂鬱―カンパネッラ「太陽の都市」の成立』（海鳴社 1985年）
アルカディア、黄金時代の次はユートピアに関する本を読んでみました。都市生活者が現実を忌避して肥沃の地に憧れたのがアルカディアとすると、ユートピアは都市そのものを改造しようとした試みあるいは夢ということになるでしょうか。著者も、ユートピアを求める心性は、宗教的、道徳的、政治的な理念が動機になっているというカール・マンハイムの説を引用しながら、現実との矛盾を自覚したときにユートピアを唱えるという共通項を見ています。
この本は、理想都市論『太陽の都市』に焦点を当てながら、ルネサンス期の政治思想家カンパネッラの思想形成の在り方について考察しています。ルネッサンス期については、昔、何冊か本を読みましたが、すっかり忘れていたか、イタリア南部のことについては触れられていなかったのか、15世紀のナポリ王国では、スペイン人によるアラゴン王朝が成立して、その初代アルフォンソ王の下で、ナポリ人文主義が花開いていたということや、16世紀には、イタリア戦争で半島が焦土と化して、さらにペストによる被害の後、飢饉が続出し、惨憺たる有様になっていたというのは、初めて聞いたような気がします。
この本で主張されていることは、私なりの理解では、次のようなものです。
��16世紀のイタリアは混乱の時代にあり、知識層がより良い社会を求めたことと、さらに大航海時代で新しい世界が発見されたこともあり、次々と理想国家論が書かれた。それらに刺激されて『太陽の都市』が生まれた。
�▲�ンパネッラは、思想的には、先入観に囚われず自然を研究すべしという唯物論的なテレージオの『事物の本性について』から多大な影響を受け、また占星術や魔術、オカルトの知識も身につけていた。
�Ｋ盻僂箸いΔ里蓮�現在の私たちが考えるような奇々怪々なもの（黒魔術）とは違って、自然の内に潜む隠れたものを発見、知悉することであった（白魔術）。それは自然を、自然の中に内在する力で説明することであり、そこに近代科学の源がある。テレージオの場合は、自然は人間を含むもので人間と対立するものではないという、西洋の思潮の中では異端の発想であった。
�ぅ好撻ぅ鹽�局に対する蜂起の陰謀が発覚して、カンパネッラは獄中の身となるが、そこで、スペイン経済の隆盛へのアドバイスをしスペインにおもねった『スペイン帝政論』と、蜂起の思想を結晶させ共産主義的国家を描いた『太陽の都市』を同時に著わした。この二著は、異なる内容に見えて、表裏一体の関係にある。
�ァ愨斥曚療垰圈戮蓮▲札ぅ蹈鹽腓�モデルになっていて、直径2マイル、周囲7マイルで、城壁が幾重にも取り巻き、7つの環状からなる都市。丘の頂上に円形の神殿が建ち、円屋根や円柱、円壁など、円環を基調とする「円」の思想が貫いていて母性的である。国家の構造は、歴史、祭祀、学芸、技術、占星術に通暁した「太陽」を頂点に、軍事を司る「権力」、円環の知を司る「知識」、生殖を治める「愛」に支えられている。
�Ε�ンパネッラの思想の最大の特徴は、頭だけの硬直した学問を非難し、技術と知識が一体となったものを大事に考えるところで、中世では貶められながらも発展してきた職人の技が、ルネサンス期に尊重されるようになったことが背景にある。これがさらに科学的なものの見方を育み、合理性が抽出されて科学として発展していった。
中世の平均寿命は30歳から35歳だとか、常に飢えに苦しめられ、牧畜民族でありながら新鮮な肉は年に12回程度しか口にできず、ミルクやバターも富裕階級の食べ物だったとありました。食生活や健康については、現代の世の中に感謝しなければなりません。
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