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2022年04月17日16:34

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「ベルファスト」を見て。〜薄墨の微かな望郷の思いをたどって、今だからわかる大人たちの振る舞いと、歳月を重ねても色褪せず輝く原体験〜

本作も、公開日が経ち、米国オスカーの発表も済んでいて。私の周囲でも評価が出尽くしたところですし、今更ですが、ルーティーンなので書き留めます。それでも、お目通して下さる、その寛大さに敬意を表します。

年少期から思春期差し掛かりの頃に起こる出来事、まして自伝的な色合いが濃くなると、「子供は、こうじゃなきゃイケない」だとかオトナの意図で、子供の世界観に立ち入ってしまうと、道理が通っても、共感も郷愁も薄っぺらな代物が、出来上がりがちのような。

アイルランドとグレートブリテンの成り立ちについても、アバウトなところに、背景となる1960年代の来たアイルランドの紛争の知識なんぞ持ち合わせては、いないのだけれど。勿論、常識として備わっているのに越した事は無いが、幼き頃、無為に過ごしてきた日々にあって、父母、祖父母の身内やご近所の大人たちと、吸収していた出来事だけを「物差し」に、子供なりに受け止めて来た出来事が、ありのままに映し出されています。

そこに、歳を重ねて判る大人の機微だとか、その当時のTVや映画だとかのカルチャーからの引用対比が、物語上、周到に仕掛けられて、お涙頂戴式のウエットさは微塵も無く、全体的に、程良いユーモアが籠められている中、大人役の名優たちが、「ここぞ」の場面で発揮する技量によるペーソスが滲んでいて、噂に違わぬ、上質な仕上がりでした。

本編中、さり気なく監督作の「履歴」も織り込んでいましたが、演出に専念したケネス・プラナーさんは、撮影監督の助言も参考に、1960年代の故郷ベルファストでの生活を白黒で撮ったらしいです。当然、その狙いは、幼かった頃の記憶の時間的隔たりを刷り込ませる為なのは分かり切っては、いるけれど。色素が抜けて、灰色に溶け込む手前の白と黒が調和を保った中に、子供の時分には理解できなかった、近所での揉め事、宗教について、近しい大人たちの立ち振る舞いが、経験を積んで思い返すと意義ある「記憶」として、留められているかのようです。

主人公バディ少年が、TVで、ハリウッド製西部劇の放映を見ていて。日常で目の当たりにしているフィクションの中は、単純に悪者と保安官の戦いで勝者が決まり、正義はなされていたのに。家の外では、知り合い同士のオトナたちが、理解できない事で、いがみ合って、釈然としない。それが、唐突に街角で起きた揉め事に巻き込まれたと思ったのも束の間、バディは、警官たちに取り囲まれながら、近所のおじさんに首根っこ掴まれて。目前には、距離を置いて、お父さんが、こちらを見据えて立ち尽くしている。「これって、まるで」と、バディの脳内で、テレビで見た「真昼の決闘」の主題歌が響いたのか、俯瞰で捉えた、そのシーンに流れて。

税金の支払いで、バディ少年の見えない所で母と揉めていた父だったけど、その時生涯最大の危機を迎えていたバディ少年にとっては、TVで見た西部劇の保安官同様に、「正義の存在」だったのを、巧いハマり具合の内に、見せつけてくれました。

また、時折、部分的に一部分が色づいたパートカラーの処理が施されていて。お婆ちゃんに付き添われたお芝居「クリスマスキャロル」の演者の舞台上でのやり取りに、家族で出掛けた映画「チキチキバンバン」の銀幕に投影されたシーンと、身内の入院とか、住民同士の衝突で故郷を捨てるべきかで、バディ少年が原因ではないけれど、家族が、揺れ動いていた時季にも係わらず、あの日見つめていた舞台や銀幕は、今も記憶の中で色彩を失わず。それらが、世に作品を送り出す立場となった作り手の「原動力」とまでは、言い切れないにしても、誰にでも、あんな「原体験」を幼少期に持ち得ているのを、思い起こさせます。

登場人物の生活状況について触れられては無いけれど、頻繁にバディ少年は、父方のお祖父さん、お婆さん宅にお邪魔していて。扮するのが、英国演劇界の至宝、ジュディ・デンチさんと、方や、此方には、馴染みが薄かったキアラン・ハインズさんですが、孫を巻き込んだ二人の会話は、相手への悪口を含みながらも、長年、連れ添って掛替えない間柄であるのが、ひしひしと伝わって来て。貧しくてストッキングも変えなかった若い頃から、互いが惹かれ合っていた逸話は、子供には判らないだろうけど、中年真っただ中の身としては、「かくありたい」と、見習わせて頂きました。

お父さんも、バディ少年にとっては、出稼ぎで不在勝ちでも、頼りになる存在だったけど、描かれる範囲では、どこか落度がある感じで。お母さん役のカトリーナ・バルプさん、所帯疲れの割には、お綺麗で、「フォードVSフェラーリ」の時同様、夢追いタイプの男性の庇護者的な役回り。親族のお通夜で、周囲の参列者そっちのけで、父が、何故か生バンドの演奏で、「Everlasting Love」を、妻に向かって、ノリノリで歌いあげて、妻の方も、まんざらでもない受け止めよう。二人の為世界はあるのを、文字通り見せて大袈裟な感じもするけれど、まあ、先のお祖父さんお婆さん夫婦あっての息子夫婦ありで、全く悪い感じはしません。

これは、全く作品の評価とは関係ないけれど。劇中に出て来る、マッチボックス社のミニカー用アタッシュケースとか、サンダーバードの乗り物とか、国は違っても、馴染んだ玩具に覚えがあって。ちょっと前までは、自叙伝的作品の背景も、ひと昔前と客観的に捉えていたけれど。いよいよ懐かしさを覚えるようになってきた辺り、歳だけは重ねて来たことを痛感せずには、いられない。
拙文にお付き合い頂き、有難う御座います。
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