mixiユーザー(id:20808806)

2022年01月23日08:35

233 view

「キングスマン ファースト・エージェント」を見て。〜曲がり角をひとつ間違え、過激諜報集団結成までの迷い道は、思いがけず続く。〜

映画だからこその前日譚、いわゆるプリクエルは、巧くいけば、根幹の作品からの「世界観」の拡張に繋がって、シリーズの「地力」が高められるものだが。仕掛けにしくじってしまうと、単なる、オリジナルヒット作の「延命措置」で済んでしまって。

英国貴族のオックスフォード公は、ボーア戦争の最中、騒乱にあって妻を失って以来、息子コンラッドを育てつつ、社会貢献を果たす傍ら、英国軍の要職にあったキッチナー伯爵の相談役として国際政治に係っていた。そして、彼は、1914年のサラエボ事件に遭遇するのである。イギリス国王、ドイツ皇帝、ロシア皇帝の思惑のすれ違いから、全世界を巻き込んだ世界大戦の機運の高まりを察知した、オックスフォード公は、馴染みのザビル・ロウに構える紳士服店「キングスマン」を隠れ蓑に情報収集しながら、各国の上流社会に通ずる「召使い」達の情報網も駆使する。

ついには、命を落とす直前の妻からの薫陶を受け、高貴なる者の義務として国家への忠誠を立てる息子コンラッドを、自身の暗躍に巻き込み、東欧の権力者に迫る危機を回避しかけたかに見えたのだが。第一次世界大戦勃発の危機の高まりと共に、高貴な身でありながら一国の兵として使命を果たそうと、父の心配をよそに、息子は、自らの意志で道を選ぶ。オックスフォード公は、まさに、歴史と自身の転換期に対峙するのであった。

ひとつの国や、枠組みに囚われないワールドワイドというか、国境も容易に飛び越えて、劇画調ともいえる「唐突」さや「跳躍」が、1、2作目のカラーでしたが。馴染みになった「組織」の原点に立ち返るこの3作目は、史実という枠組みの中に、創設者のオックスフォード公らを置く事で、観客にも、当時の国々がどう動いて来たか、歴史の表舞台やその裏側を体感させる趣旨もある。1世紀以前が舞台なので、それまでの現代篇の様な小道具ガジェットなどある訳無く、複葉機に、自動車も普及し始めのオープンカーで、キングスマンチームの母体の大陸移動は旅客列車と、当然これまでの作品と違う優雅さ、時間の流れで、当たり前だが雰囲気が違っている。

イギリスのビクトリア女王の孫たちが、ロシア、ドイツの実権を握っていて、それぞれの思惑のすれ違いが、第一次世界大戦にもつれ込む事になって、オックスフォード公も、自国内での政治的折衝だけで太刀打ちできないと自覚するのだが、その裏には、歴史に名を馳せる実在の人物の暗躍があったのだと、ぶち上げられている。「闇の組織」(その結社の理由は、当時、世界の中心だった英国の振る舞いに起因している)から、ロシアの動乱担当として仕向けられたのは、怪僧の異名で名を馳せたラスプーチンで、怪しい呪術をもって皇帝一家を取り込み、国政も操ろうとしていたところを、独自の召使い情報網で察知したオックスフォード公が、敵地に乗り込んで阻止するのだが、前2作までは、ハイスピードの武闘振付に、ロックミュージックに乗せて、刺激的に仕立てていたのが、本作では、仕込み刀に、コサックダンスの振り付けと、エレガントなものに赴きを変えていて、これはこれで魅せてくれる。

この新作で有数の盛り上がりから、現代版で我らが知る「キングスマン」のオリジン原形を目撃するものと、見ている側も前のめりになるのですが。

その時代の英国の中心だった白人層を代表する、オックスフォード公と息子コンラッドをレイフ・ファインズとハリス・ディキンソンが演じていて、栄光ある大英国を象徴する貴族階級の「高貴」らしさを現していましたが。若いコンラッドは、母の忌野際に。教え込まれた、持てる者の義務を果たすべく、国に奉仕しようと、戦場での勲功を立てるのに躍起になっていたのを、父オックスフォードは、自身の経験も踏まえ、殺生より、救済に尽くす意義を説いて、ロシアでの活動実績で、息子の凝り固まった気持ちを解けたと思いきや。父は、息子の軍隊入隊を止められず、先のラスプーチンの計画阻止で高まった、国家の枠を超えた諜報組織結成に向けた「気運」も、順調には膨れない。

007で、組織の長でありながら、部下を窮地に追い込んだ報いが、作品の枠を超えて降りかかったかのように、第一次大戦開戦に向けて暗躍する組織への対抗手段を立てる大義を置いて、愛息の宿命にレイフ・ファインズは、身をよじって。父の苦悩だけが色濃くて、息子役のハリス君に、息子としての言い分を示すだけの表現の場が無かったのが、偏りを生じてしまって。宣材に「始まりも、超過激」と、前2作までの作品カラーに繋がっているような感じを示唆するけれど、創設者の極個人的な逡巡のために、我々が知っている「キングスマン」の組織に通じるような、鉱脈に辿りついた感じが得られたとは、言い難い雰囲気。

現代篇、特に1作目でのコリン・ファースとタロン・エガートンの「疑似親子」的関係が、このマナー重んじる諜報組織の活力の基礎であることを、この原点を描く本作で、垣間見られるのかと、見ながら想像していたけれど、勝手な思い込みで終わりました。アーサー王伝説の登場人物名が、コードネームに用いられるハシリは、垣間見えましたが。


1作目の認知度で、映画界に、「キングスマン」の領域が広がって。現代仕様のビルを2棟、その広大な敷地に建てて。クラッシック仕様の別棟3号棟を築いたのは良いけれど、現代仕様の前の2棟と、あまりに「様式」が違い過ぎて、サビルロウの仕立屋「キングスマン」が、表向きの生業となった以外は、現代版に通じるものが、まだまだ、築き足りてない感じ。世界史を体感する、前日譚であるプリクエルシリーズも、また、道半ばで、3作目を見た観客の渇望感を、醸し出そうと計っているのか。作り手の創作意欲の発展なのかもと好意的に受け取ったとしても、この状況を引いて見ると、やはり、作品のゴールを先延ばしにしているものと、いぶからざるを得ない。

それでも、歴史上の実在人物で、闇の組織が放った者の中で、目を引いたのが、ラスプーチンを引き継ぐ、革命家で哲学者のレーニン。そのセリフの記憶は正確ではないけれど、左手を首謀者に突き出して、「私は、左の推進者となるが、そのためにも右の推進者が必要だ」と、意図的に紛争状況を作り出させる事を要求して。エンドタイトル尻で、組織が、応えて連れて来るのが、「あの方」で。第二次大戦危機を前に、現代のあの「キングスマン」のカタチに更に通ずる組織の形成の流れを、見届けたい意欲を掻き立てる事も、シリーズの作り手は、抜かりなかったのである。

拙文にお付き合い頂き、ありがとうございました
シネマサンシャイン沼津 シネマ5にて。

5 4

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する

<2022年01月>
日 月 火 水 木 金 土
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
3031