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2021年10月16日23:50

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「アナザーラウンド」を見て。〜もう一杯、明日の不安を払うくらいの酔い心地で、おさまるほどまで〜

劇中、中年男四人が、レストランでキャビアをアテに、グラスを満たしたウォッカをあおる場面で、見ているこちらも、ノドを浸してゆく発火しそうなアルコールの味わいを想像してしまった。とはいえ、家に着くまで、実際にグラスを空けるのは、我慢できますが。

マッツ・ミケルセンさん扮する、高校教師のマーティンは、奥さんと子供二人を養う働き盛りなのに、家庭でも、職である担当科目の授業にも、張り合いが見いだせない。似たように、燃えつき症候群では無いのだが、職場でも、私生活でも冴えない同僚教師の男三人が、レストランで、祝いの席を設けて、日頃の鬱憤もあってか、ついつい酒が進んでしまうのだが、マーティンらは、捕らわれていた何かから解き放たれて、学生の頃の様に、はしゃいで一夜を明かす。

それを機に、4人は、ノルウェー人の哲学者が提唱する「血中アルコール濃度を一定に保つと、仕事の効率が良くなって想像力もみなぎって来る」という論理を、密かに検証実行に移す。朝から人目を避けつつ、お酒を引っ掛けて、授業にあたると、身振りや言動が、思うままに振る舞えて、授業時間をやり過ごすだけだった生徒たちの関心も惹いて授業は、活気を帯びる。そして、マーティンは、すれ違いだった奥さんとも、想いを通い直せて、理論を実証していたのだが、更なる、「効果」を期待して、アルコールの摂取量を増やしていくのだが、仕事のハリも、プライベートの再構築も、蟻の一穴ナンとかの如く、自身のコントロールから逸脱し取り留めのない事に。お酒の力で、バラ色に見えた、マーティンら中年四人の将来は、元のくすんだ色に、戻ってしまうのか。

本当の自分は、こんなんじゃない。隠された自分を覆う「膜」を、取っ払って、本来の姿を見せたい。そのための「浮揚感」、「解放感」を、アルコールの力を借りて得たい。本作のマッツさんら、中年教師四人と同じことを考えるムキは、多いのではないだろうか。私も、本作が、どういう結論を導き出すのか、期待して出向きました。

他者との間にある、「見えない障壁」の為に、互いに殻に入って。その武装を解いて、壁の向こうに入り込む為に、我が国の大人社会では、アルコールを用いた「飲みニケーション」の機会が設けられたりしますが。(昨今のご時世では、控えられているでしょうけれど)。アルコールがもたらす緩みによって、押さえつけられた自分が解放されて、マーティンが、担当する歴史の授業で、生徒を気にせず思うがまま講義するのは、願った通りだけれど。

そんな単純にすまなかったのが、奥さんとの間柄。息子たちを連れて、キャンプ先では、家族の繋がりを強固にして、息子たちの寝泊まりするテントとの距離が、一定間隔保たれていたか定かじゃないけれど、野外であるのも手伝ってか、愛し合っていた頃のように戻る事も、出来たにも関わらず。まだ夫婦関係を持たれていない方には、次元の遠い話にしか映らないでしょうけれど、近づいたと思われた奥さんと、結局、深い溝が出来てしまう件は、他人事では、済ませられませんでした。

ハタから見ていれば、奥さんを責めるよりも、もっと、自身の心境を打ち明けたら良いのにと判るのだけれど。当事者となると、「理解されない」って、自己完結してしまって、意志の疎通は遮断されて、理解してもらえないために、距離が開くという。幾ら、一時アルコールの力で、壁を乗り越えたかに見えても、自分で築く壁は、結局、自力で対処しない事には、ただ、アルコールが嵩んで、失態を見せるだけなのが、本作を見ていても、明らかです。

この話を、高校に設定したのも、妙味をもたらしています。エンドタイトルに、日本語字幕で、製作されたデンマークでは、我が国よりも、アルコールの許可年齢が、低いみたいで。まだ、社会にも家庭にも、参加してないし持ってない学生は、オトナ気分と、高揚感を味わうのみで、お酒に手を出します。それと、比較対照されるように、マーティンら大人が、解決しなきゃならない「問題」の突破口に、アルコールの威を借りようとする訳だけれど、目に見えない部分で、取り繕っていたのが、失態を見せて。常識が、判っている筈なのに、却って、大のオトナが、子供じみて見えてくるのです。

四人の教師仲間の内、体育を担当するトミーのエピソードが、アルコール摂取過多への警鐘を鳴らす意味合いとなっていて。彼が、独身なのだけれど、少年サッカーチームの監督もしていて。例のアルコール濃度維持を、サッカーコートでも実践していて、その件で、ペットボトルを持って来なかった少年と、距離が縮まるのですが。皮肉な、顛末を迎えて、胸が痛かったりもします。

ノルウェーの哲学者の提唱実施の様子と、中年男四人の生活描写を、ひたすら追ってゆく展開なのですが。先に書いた出来事を、織り込んで、飽きずに進み、決して教訓や、アルコールがもたらす悪影響だけを強調するものではございません。お酒が、もたらす「光」を掲げてくれています。トミーが、マーティン夫妻を気に掛けている一言が、二人に空いた溝に入り込んでくれるのも、その表れです。

そして、とどめは、マーティンが、若い頃嗜んでいたという、ジャズダンスを、学生たちの卒業式の「打ち上げ」で、生徒も教師も「無礼講」となった屋外で披露される場面。冒頭のオヤジ四人の祝いの席で、チラッと昔話でひけらかされていたのが、満を持して、魅せつけてくれます。マッツさんの踊りっぷりが、それまでの、煩わしい数々を、吹っ飛ばしてくれるかの盛り上がりになりました。宣伝材料に用いられている、シャンパンボトルを飲み干す、マッツさんの「飲みっぷり」のカッコ良さも、今後のお酒との付き合いに向けて、光を投げかけてくれます。「マスター、マッツさんと同じヤツ、こっちにも(アナザーラウンドの意味です)」って感じにね。

拙文にお付き合い頂き、ありがとうございます。
シネマサンシャイン沼津 シネマ7にて

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