ギリシャ語で読む『メタピュシカ（形而上学）』のノートの10冊目が終了。今回は１か月と13日なので、最短記録を更新。
この時期は近年にない猛暑で（近頃では言いにくいが、エアコン未導入）、汗がノートや辞書に垂れる事態もあり、その場合は諦めて時間をずらした。
ちょうど、区切りよく第５巻（��）が終わったところだが、同巻は「哲学用語集」であった。第一章「アルケー」（始まり、原理、始動因）に発して三〇章まで続く。昔、翻訳で読んだ時は、入門書的でつまらなく思えたが、原文で読むと興味深い定義、説明に出会うことが多く、アリストテレスがいかに厳密に言葉を使っているかがよくわかった。言葉は一般に多義的だが、理論的な考察をしている時であっても意外に人はその多義性を粗雑にまたいで使っていることに気付かされる。根源的な語ほど多義性は重層的で意味もかなりかけ離れたものとなることも多いが、隣どうしは手をつないでいるので不思議に感じない。
今、項目を振り返って、単純な事実を知る。この哲学用語集には「ロゴス」がない。「ロゴス」にはいろいろな意味がある。人間同士の対話、その内容、言説、議論、説明規定、定義、特別な言葉（神託、金言）、道理、理性、原理、計算、勘定、分別、割合、比率 等々。
ヨハネ福音書の冒頭「初めに言（ことば）があった。言（ことば）は神と共にあった。言（ことば）は神であった」に出てくる「言（ことば）」は原文では「ロゴス」であるが、この場合は神の「光」であり「理性」を意味するらしい（神に似せて作られた人間にもコピー分与された）。ことばが神格化されたのだ。そんなことが『形而上学』には書かれていないのがうれしい。
それ以前に、ロゴスとは、何かについて考え語るためにあるのであって、語られるためにあるのではないのだ。ア翁はそう思って用語集に入れなかったのだろう。人間は「話をすること（ロゴス）を持つ動物である」というギリシャ人の言葉がラテン語に翻訳された時、「理性（ロゴス）を持つ動物である」と誤訳されたのと軌を一にしている。私も詩に関わる一人として言葉の大事さを感じているのだが、言葉を神格化したいとは思わない。人間がいない時から言葉があったというヨハネ福音書のこの箇所が私は大嫌いである。人間がいるから言葉は生まれたと信じている。私の知る「ロゴス」は神様でなくていいから、友だちでいてほしいものだ。ハープの音を一オクターブ上げるには弦を半分にすればよい。その「比率」も「ロゴス」である。
この５巻「哲学用語集」が終わったので「世界の名著」の「アリストテレス篇」（川田殖・松永雄二共訳）とはしばらくのお別れである。11巻と12巻になったらまたお世話になります(^_^)/。
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