いつもの酒場、いつもの常連。
僕が「めんたいぴりり見て。江口カンの新作やけ」と
口火を切ると、
「そうなん。わかった、行く」と米屋。
年金旅人は少し苦い顔で、「この間TNCのスペシャル、
5時間半一挙に観たんよ。だけ、お腹いっぱいで」
「映画は違うけ、ぜひ観て」とツッコミ、
旅人もうなずいた。
そして話は映画つながりで、「ボヘミアン・ラブソディ」
の話題に。
米屋ぽつりと、「確かにいい映画だったけど、
ゲイになった
ぐらいであんなにロックミュージシャンが悩むかなぁ。
いいやん、別に」
俺、「でも最後のコンサートのシーンはすごかったやろ」
米屋、「うん。声も出ないのによく頑張ってたし、
確かに良かったけど。でもプロだったらまぁ、
そのくらいね」
ここで僕の胸の中に、イヤな予感がよぎった。
「うん?」「まさか」
「ねぇ、フレディ・マーキュリーがエイズになって、
命をかけたコンサートがあのシーンってわかってるよね」
と念を押すと、
米屋、「え、そうなん。いや、早く死んだやなぁとは
思ってたけど、そうやったん」だって。
「いやいや、そこがこの映画の大きなテーマやろ」と
突っ込みながら、僕はなぜか愉快でたまりませんでした。
だって、「見逃すにもほどがある」でしょ。
僕にとって大物、器のでかい人というのは、こういう方の
ことをいいます。
きっと彼は「七人の侍」を観ても、「九人ぐらいいたよねー」
と笑って返してくれると思います。
変に小利口より、「見逃す人」でいたいね。
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