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2017年08月11日05:49

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好きな酒場がありました

その店の近くに引っ越すぐらいに
好きでした。
8人掛けのカウンターと小上がり。
メニューは四季折々の和食と肴。
店内に低く流れるジャズと口数少ない短髪の店主。

通い始めて四日目のことでした。
引き戸を開けた僕に主がひとこと。
「そう、毎日来られるとうっとおしいんよね」
「え………」
予想だにしなかった台詞に僕は言葉を失い
黙ったまま席に着きました。
「お通し、代り映えしないけど」
目の前に出されたトコロテンを見て、腑に落ちた。
これは二日前に出されたものと同じ。

彼の言った「うっとおしい」は、「毎日違うものを
出せるほど俺は器用じゃない。だからあんたに悪くて」
と同意語だったんだと気づいたのです。
心配り、言葉足らず。
その不器用さと料理のおいしさに惹かれて、以来二十数年
店に通いました。

店の名は「勝彦」。今日は主が死んで1年。初盆会です。

「おーい、勝彦。向こうで元気にやってますか。俺は未だに
勝彦を越える店に会ってません。今日ぐらい戻って来て
美味しいもん、食わせてください」

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