W・デ・ラ・メア田中西二郎訳『死者の誘い』（創元社 1958年）
デ・ラ・メアを続けて読みたいと思います。学生の頃に買ったものですが、読んだ記憶がないし、読後の日付も書いていないので、途中で投げ出したか、読んでいないかです。新書版の世界恐怖小説全集の一冊。この全集を一冊ずつ古本屋で見つけて買うのが学生の頃の楽しみでした。
一言でいえば冗長すぎる。新聞か雑誌の連載小説で引き伸ばす必要があったのかと勘繰りたくなるような不自然な展開が目にあまりました。巻末の解説で平井呈一が、「ヘンリー・ジェイムズが、『朦朧法』ということを言っている。全部はっきり書いてしまわないで、ぼんやりと暗示的に書いておくやり方である」（p322）と、その技法の特徴を説明していますが、これではあまりにも朦朧とし過ぎです。昔読もうとして途中で投げ出したに違いありません。
確固とした展開としては、
�，△詈茲里修个婆欧蟾�んでしまった主人公が目覚めてみると、別の顔に変じてしまったこと。
�△修諒茲�18世紀に自殺したフランス人のもので、自殺したという理由で墓地の外に葬られていたこと。
��そのフランス人の自伝に掲載されていた版画の顔が、変貌した顔にそっくりなこと。
�ご蕕�変わったことで家庭に悶着が起こっていること。
�イ修鵑覆覆�で散歩の途中で知り合った兄妹と親しく付き合うようになったこと。
でしょうか。
上記の枠組みはしっかりしていますが、よく分からないのが、
�ヾ蕕諒僂錣辰深膺邑�の家族への対応、それに対する妻の態度が不自然で、夫婦がやり取りする会話がとても非現実的なこと。
�△気蕕砲修鵑幣�況のなかで、主人公が知り合った兄妹の妹に恋するという不自然な設定。
�７史紊梁減濕�体が謎めいていますが、兄妹と交わす会話が神秘的で意味不明なこと。
�ぐ綮佞�顔が変わった患者に対して藪医者らしいセリフをまき散らすのはいいとしても、長年の友である老牧師が主人公を慰めようと話す内容がまた頓珍漢。
主人公の友人が主人公を本人ではないと難じたり、妻としばらく別居するなど、小さなエピソードが添えられる程度で、ほとんど状況が展開しないまま、ひたすら会話を続けるうちに、だらだらとして物語は終わってしまいます。解説では「最後にローフォードは勝つけれども」と書いていますが、果たして本当に勝ったのか、いったい何が勝利なのか、はっきりは分かりません。顔が元に戻ったというような言葉は文中のどこにも明確には書かれていません。ただ、
�ー膺邑�が最後に妻宛てに手紙を書こうとして結局は破り捨ててしまいますが、その文面の中に「『変化』はもうすっかり消えた」と書いていること（鏡も見ていないのにどうして分かるのか）、
�∈埜紊里曚Δ如�顔が変貌した直後に会った母の友人と再会したとき、母の友人は前に出会った人と同一人物だと思わなかったこと、の二つからなんとなく匂わせているだけです。
錯綜する会話が多く、途中で誰が喋っているのか分からなくなったり、いきなり知らない人の名前（クレイク氏）が堂々と出てきたりします。まるで外国語の本を読んだ時のような混迷ぶりです。訳者のせいもあるのだと思いますが、作者が小説上の美学として考えている以上に文章が曖昧模糊し過ぎて、破綻してしまったのではないでしょうか。
と悪口ばかりになってしまいましたが、これも『恋のお守り』で味わった世界を期待しすぎたせいでしょうし、私の読解力が作品について行けていないだけの話かもしれません。あまり悪口ばかりではいけないので、良い面も付け加えると、荒唐無稽さは若干あるものの、墓に葬られていた他人の顔が乗り移るという設定はなかなか不気味なものがあり、冒頭部分で興味が掻き立てられたのは事実です。もうひとつ、顔だけでなく内面にも食い込まれて人格が乗っ取られるのではと、主人公が焦燥にかられるあたりは、恐怖心理小説としても迫力がありました。
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