ヴァイオリン・ベース、といふ楽器がある。
まぁベース・ギターだ。
形がヴァイオリンに似てゐるから、といふだけで、ヴィヲロンの音が出る訳ではない。
たいへん特異な楽器である。
ヘフナー、と云ふ独逸のメーカーが古くから作っており、かのビートルズのポール・マッカートニィ氏が私用して有名になった。
てゆーか、ポールが使用してなかったら、とぅの昔にに絶命してゐる、と云っても過言ではない。
そのニーズのほぼ全てが、ポール、ひいてはビートルズを模倣するためだけ、にある。
それだけで、現在まで根強い人気を持ち続けてゐる、特異な楽器なのだ。
各社よりコピーモデルが出ており、一説ではオリジナルのヘフナーより、コピーの方が音が良い、とされ(事実)、中でも70年代に日本のグレコといふメーカーが発表したコピーモデルは、国産の中古ながらなかなかの名機とされ、ファンも多い。
かく云ふワシもさうだ。
ベースを弾きはじめた頃、どんな楽器を買うか悩んでゐた。
ビートルズの写真を見て、この、どこかトボケた感じのフォルムにたいへん心惹かれ、メンバーに『これにしやうかな』と云ったところ猛反対された。
『ワシらはハードロックを演らうとしてゐるのに、これはナイ』と云ふ。
でまぁその時はプレシジョンのコピーモデルを買い、その後数百年に渡り様々な楽器を所持してきたが、心の何処かに『いつかはヴァイオリンベース』といふ想ひがあったのだ。
して、一昨年だかに、屋不奥に手頃な値段で出てゐた(グレコのが)。
まぁこの辺で買っとくか、みたいな気持ちで落札した。
音が出なかった。
友人のリペアマンにお願いし、音が出るやうにしてもらった。
ポコポコした音で、良ささうなのだが、弾きにくい。
ここゾ!と云ふところで押しが弱い、とか色々あって、まだ全然使いこなせてゐない。
しかし、ビートルズのみ、ならまだ分かるが、ウィングスやソロになってからも、これを使い続け、しかもこれとほぼ正反対の音の特性を持つリッケンバッカーのベースを、特になんのこだわりもなく持ち替え、弾き唄い、しかも出てくる音があんまり変わらぬポール・マッカートニィといふ男の、ベーシストとしてのポテンシャルに、いつもなかなか驚かされるのである。
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