mixiユーザー(id:1041518)

2015年09月08日11:59

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昭森社

またリルケ関連だが、彼はドイツでは今なお『旗手クリストフ・リルケの愛と死の歌』の作者として一番有名だという。信じられないが、と読み返してみた。18歳の少年が戦争に行き、たまたま旗手という名誉ある役をおおせつかるが、間もなく戦闘で死んでしまうという話。まだ恋もしらぬ少年同士の対話や故郷を思うあたりが人気なのだろう。

読むのに一時間もかからない薄い本だが、神田の古本屋で見つけたのは何十年も前で、珍しいので買った記憶がある。戦中の昭和16年、昭森社刊。社長はその頃から森谷均だった。戦後、黒田三郎は森谷氏と親しく、ほとんどの詩集を同社から出し、森谷氏が死んだあと書かれた印象的な詩もある。私の若い頃『詩と批評』が同社から出たのも忘れられない。どちらかといえばマイナーだが名前を聞くとうれしくなる出版社だった。

話がそれたが、その昭森社の巻末広告が戦時だけに面白い。北園克衛訳編『ピカソ詩画集』、草野心平『富士山』などに混じって長嶋三芳『精鋭部隊』、東京詩人クラブ編『戦争詩集』など勇ましいタイトルも見える。リルケの『旗手クリストフ』もそうした流れの中で読まれたのかもしれない。当時ドイツと日本は同盟国だったし。ただ同書はドイツでは第一次世界大戦時も、平和時も、ナチ時代と第二次大戦時も戦後も一貫して読まれてきたらしい。指揮者カール・ベームの息子で俳優のカール・ハインツ・ベームは1975年に来日したとき、これを朗読して「反戦的な作品」と呼んだという。取りようによってはそうも読める。

mixiのレビューリストに「旗手……」で出るか検索してみたら、河出書房新社の全集の2巻がヒットした(訳は誰かわからない)。amazonでも同様だった。私の持っている弥生書房版の全集では1巻に昭森社版の塩谷太郎訳がそのまま収録されているが、その全集そのものがすでにamazonでヒットしなくなった。これからは、本の古さを示すのに、amazonでヒットするかどうかが基準になるかもしれない。時代は変わった。私の小さい頃、アマゾンは南アメリカにあったのだが。
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