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2012年11月19日22:37

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リレー企画・続報の11

綾華☆☆様のコミュニティ「ZERO Another BALLAD」の設立1周年記念リレーに更新がありましたのでお知らせいたします。


http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=71247131&comm_id=5150160&page=all

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<EXリレーエピソード 『史上最低の侵略』>

take-12

SEPTEMBER 18TH PM 19:35

「やるじゃない、ユカリ。拍手多かったから、一品デザート追加ね」
「エヘッ。タカフミぽんから借りた、宝塚のDVD見て練習したの」
 ステージから戻って来た妹とハイタッチするサヤ。

 フレンチビストロ『ネージュ・ルネ・フルール』は宝塚歌劇団ファンのオーナーの趣味で、時に宝塚歌劇団ナンバーの歌自慢をして、拍手が多い歌い手には、付加サービスがつく。
 サヤは腹違いの妹ユカリと、三者懇談会の後、夕食に来ていたのだった。

「ユカリさん、よかったよ。『レビュー伝説』の『愛の星』だよね」
「あら奇遇じゃないテラちゃん、って。えぇえっ?」
 その声に振り返ったサヤは、思わず持っていたナイフを取り落とした。斜め後ろの席に座っていたのはソラの弟テラだったが、無論それが原因ではない。
「あ、テラぽんもご飯? わあ、一番いいコースじゃない!」
 確かにサヤたち姉妹が頼んだのはアラカルトメニューで、メインはサヤが魚でユカリは肉だが、テラが食べているのはまぎれもないフルコースだ。だが、もちろんそれが理由でもない。

 取り落としたナイフを交換されたことにも気づかぬほどサヤがうろたえたのは、ひとえにテラの向かいに座る鮮やかなドレスの麗人の存在ゆえのことだった。
「リリ、リーダー? なんでここにっ」
「なんではないでしょ、サヤ。私だってたまの非番くらい、ダーリンと美味しいモノでも食べたいじゃない。ねえ」「うん」
 素直にうなづくテラにほほ笑みかけた天使のような顔のまま、美貌の修羅は言葉を続ける。

「でもサヤ、ソラには内緒よ。叔父さまはわかってくださっているそうだけど、ソラは変に気にしてるみたいだから。私も部下をそんな気の散った状態で戦わせるような危ないことはできない。まして大切な人のお兄さんとなればなおさらでしょ」
「そんなに兄さんのことを! ツクヨさんありがとうっ」
 サヤは思いっきり目眩がした。

 高校大学時代にはフェンシングのアジアチャンピオンであり、今や共に戦うカマラーダであるソラ。出会った当初こそ両親を奪われた悲嘆のどん底で、こんな泣き虫の弱虫ではカマラーダなど無理とさえ思ったが、今のソラは頭脳明晰な科学者でありながら優秀なパイロットであり、剣術のみならず射撃にも秀でた立派な戦士だ。
 でもその弟であるテラには、そんな戦士の素質などカケラもない。アーティストとして平和に暮らしているためか、穏やかかつおっとりしている。
 それがどこでどうなったのか、テラは戦いの女神とも魔神とも例うべき真柴リーダーに懐き……いや、それどころか正真正銘のラブラブなのだ。

 日本画を学ぶ高校生テラと真柴月夜ジャパン号令は、会うなりお互い一目惚れに陥った。
 そして弟が上司と、それも気質から住む世界まで両極端としかいいようのないほど掛け離れた相手とラブラブというあまりにも厄介かつ面倒臭い状況に、冷静沈着にして頭脳明晰なはずの兄が弟を思うがゆえにうろたえていることに、この件に限り兄思いのはずの弟が全く気づいた様子を見せないことこそ、古人が「恋は盲目」という言葉で表した境地の一例に他なるまい……。

「お姉ちゃん、デザートどっちがいいの?」
「あ、ユカリ。なに?」
 呼ばれていたことにようやく気づき、サヤはあわてて妹に向き直った。
「エヘッ、デザートランクアップだって。チェリー・ジュビレかクレープ・シュゼット、どっちにする?」
「え、チェリー・ジュビレにクレープの……?」
 ついていけずにいるサヤに、ウェイターが慇懃に説明する。
「チェリー・ジュビレは熱いチェリーのスープにバニラアイスクリーム。クレープ・シュゼットはクレープのオレンジソース添えでございます」
「じゃ、じゃあ、チェリー・ジュビレ……」
「だったら私もお姉ちゃんと一緒ね」
 ユカリがウェイターに注文した。だがサヤは上の空だ。

 そういえば今日、ソラは怪獣侵略者アーカイブズのチェックをリーダーに命じられ、昼からずっとメインコンピュータセクションに篭っている。そして夜は倉澤チーフから射撃シミュレーションを受ける予定だったはず。無論それらのスケジュールを管理し決定する権限をどこの誰が持っているかはいうまでもない。

「……やっぱり、タイターニアよかタイタンだわ」
 サヤが小さく呟いた。
 B・i・R・Dジャパンの旗艦たるミッドシップの愛称『タイターニア』 その命名者こそ他ならぬテラだったのだ。

 シェイクスピアの妖精の女王に私をなぞらえてくれたんだってと、あのときジャパン号令真柴月夜たるものが惚けに惚け、哀れソラは頭痛のせいか、顔色さえ変わって見えたほどだった。
 サヤにしても、どこが妖精の女王だとツッコミを入れたいのは山々だった。タカフミなら絶対テラにハリセン食らわせたに違いない。想像しただけで声まで聞こえてくるではないか。
>なにがタイターニアや。タイタンやろがっ< ビシッ……!


「お姉ちゃん? アイスクリーム溶けてるよ」
「あ、そ、そうね」
 サヤはそそくさとチェリー・ジュビレを口に運んだ。後ろの齢の差カップルが2人だけの世界に入り込んでいるのをいやというほど背中で感じつつ。おかげで切れ者の女隊長に内心を見抜かれずにすんだという僥倖に気づく余裕など、今の彼女にはカケラも残っていなかった。


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SEPTEMBER 18TH PM 21:00

「……お見事!」
 倉澤チーフの声を聞きながら、ソラは特殊ゴーグルを外した。
 チーフの顔は驚嘆を隠せずにいたが、ゼロも口笛の一つも吹かんばかりだった。
“すげえ。どうしたソラ。今日は全く容赦ナシじゃねえか!”

「そんなに凄かったですか。チーフ」
「完璧としかいいようがないな。ノーミスのみならずことごとく一発で致命傷。なにか思うところでもあったのか?」
「いえ、なんだか妙に心が騒いで」


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「じゃあね。ツクヨさん、またご飯食べようね」
 レナニアから走り去るポルシェボクスターに手を振るテラ。青年と呼ぶにはまだ少し早いそのまなざしに宿る光は、人にはいくつもの顔があることを実感し切れていない者のみが持つイノセンスを未だ湛えたものだった。



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