他者からは、係わりを避けられる、まさに、犬も食わない夫婦間の揉め事を、フィクションとして膨らまして見せて、そこに、動揺、賞賛、気付きだとか、共感を呼ぼうと目論まれたであろう一篇。
ホームセンター副店長の裕次郎と、コールセンター勤務の日和は、結婚四年目の共働き夫婦。円満な夫婦生活を送っている意識のもと、結婚間近の若手男性店員の若槻はじめ、それなりに人望も集めて、仕事に勤しむ裕次郎であったが。ベテラン女性店員から、自身も実名で参加するSNS「旦那デスノート」で、ひときわ辛辣なコメントを寄せる、ハンドルネーム、チャーリーの書き込みを見せつけられて、「自分には関係ない」と、一笑に付すのだが。冷静に見直せば、我が家で飼っているフクロウの名前は、チャーリーで、書き込みにも思い当たるフシが、多々あって。それを機に、「平穏」と見做していた二人の間が、ほころび始めて。裕次郎と日和を、居間で息を潜めるように見守るフクロウの眼に映るのは、危機を乗り越えた二人か、道を違える二人なのか。
劇中でも、日和の書き込みを出版しょうと働き掛けを受けるのだけど。そう云った類の本から、羅列的なネタのお披露目的な展開で、終始するのでは無く。例えば、若槻の結婚披露宴での、裕次郎の結婚生活の先輩の立場を踏まえての上司スピーチだとか、節目のイベント事を通しての、夫婦としての成長が試される機会だとか、登場人物を通して、フィクションの醍醐味が感じられる創意は、受け取らせていただきました。
互いに思う気持ちがあって、人生を共に歩む事となったのに。「結婚」の枠組みに乗っかると、なり行き任せというか、向き合うのも、いつしか疎かになって。行き違いが生じる故の不和だったり、SNSへの捌け口に行きついたりしたのだろうけど。四年間の間に日和は、早産で子供を亡くした経験があって。それでも孫を望む姑の会話は、自ずと圧や毒が含まれているし、防波堤となる筈の裕次郎は、我関せずの態度で、日和が、「旦那デスノート」で、サイトを湧かせるまでに至る背景は、判るのだけれど。
でも、日和に、書き込むだけの、夫への苛立ちや反目も、さほど感じないし。裕次郎も、愛情が冷めさせる粗忽さだとか、あんまり目に付かないためなのか、売りとして標榜される、ブラックコメディとしては、醸し出す勢いからの「押し」が足りないような。
結局、裕次郎と日和は、仲がいいんだもん。結婚前に、「風で宙を舞っいてるビニール袋を、地面に落ちる前に掴んだら、願いが叶う」って、他人には全く通じないルールで、二人してはしゃぎ合った思い出を、四年後、ビル街でぶり返すんだけど。
裕次郎の筋トレが功を奏して、素足の日和を手のひらに乗せてリフトアップ。街路樹に引っかかったビニール袋に、あと少しで手が掛かりそう。これからの二人の幸せと、地球環境への細やかな貢献も果たせて、一石二鳥。こうして、二人一緒の、「出来事」を積んで行けば、「旦那デスノート」なんか、ハナから要らないじゃん。ブラックな毒気よりも、結局、ホノボノ要素が、満たしているし。
裕次郎に扮する、香取慎吾さん。「凪待ち」に続いて、その辺に、居る人に徹して。役のハバを広げるという意味では、今の環境は、良いのかと思います。先に書いた、披露宴でのお祝いスピーチの件ですが、カンペも忘れ、同席の妻ともギクシャクしていて。そんなメンタルが、会場に伝播し、重い雰囲気の中、衆目を一手に集めて、新婚への「祝福」を果たしきるのは、20数年培ったエンタテインメントの才が、発揮されていて、シッカリ見せ場にしています。
岸井ゆきのさんは、裕次郎の先輩に譲ってしまったのか、描かれ方にも問題あるかとも思うけれど、彼女じゃ無ければという事は、無かったのが残念。
裕次郎の仕事仲間で、「旦那デスノート」を紹介する箕山さんに扮した余貴美子さんの貫禄と、世の妻たちが、こぞってSNSにグチを上げる事態に、マリッジブルーに陥る、とり越苦労が過ぎる後輩若槻役の井之脇海君の小心具合が、目に留まりました。
裕次郎が、家を出て行った日和を繋ぎとめようと、職場のコールセンターに乗り込んで、心情を彼女にぶつけると、それが火種となって飛び火して、コールセンターの職場の不満の爆発となって、その場が騒然となるだとか、関係の無い切掛けで、その場が思いもしない方へ転がす画的にも映える見せ方が作れるので、「台風家族」に続く、市井監督オリジナル作品での試みは、続けて頂きたく存じます。
でも、フクロウのチャーリーのアップを写して、見る方に、投げ掛けるのは、どうかなと。主役二人の、ビル街での疾走と、枝にビニール袋を引っ掛けた街路樹の傍で、組体操を見せる頑張りの後に、きっと互いに見せ合うだろう「笑顔」を捉えてくれた方のが、演者とお話を立てる意味でも、そうして欲しかったかなと、見る側は、勝手に思い付いちゃったりしました。
拙文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
シネマサンシャインららぽーと沼津 シネマ��にて
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