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2024年09月01日23:34

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「ラストマイル」を見て。〜客先に続く道筋こそが、生命線。〜

判り易くて、取っ付きやすい。キャストや原作の話題性に富んで容易くチケットを求めてしまいたくなる作品を切れなく送り込んで邦画市場を席巻する映画配給会社の東宝様。その揺るぎない営業戦略故に、作品評価で年間を区切った賞レースでは影が薄くなりがちなのですが。

本作も手堅くクライムサスペンスのエンタテインメントを体感させると同時に、流通業界の抱える「24年問題」を可視化し、あらためて今の時代における「働く意義」に思い巡らす機会を投げかける。課せられたチケット売上の占拠の命題を果たしたうえに、社会的問題提起を果たしているという点では、東宝作品ラインナップにあって異質な存在となる。

サマーシーズンの全国一斉公開作品として、ベストセラー作品の映像化でもない本作が実現したのは、今年の初頭に公開された「カラオケ行こ!」も手掛けた脚本家野木亜希子さんのストーリーテリングの実力もさることながら、過去にTVドラマとして評価を得ている「アンナチュラル」、「MIU404」の功績が「担保」となっていることは疑いようが無い。

どちらも、続編ドラマが製作されても不思議はなかったのだが。違う作品で実績を重ねている演者さん達が、ブランクを経てそれぞれの役として目の前に現れている姿に、感慨を抱いたり、その間演じて来た役とは明らかに違って演技の「幅」を知らしめられたりと(井浦新さんと、綾野剛さんに特に顕著に感じました)見ている間、過る感情もあったりします。

しかし、それぞれの過去のドラマの「劇場版」となることなく。かといって、事件解明の過程で、それぞれの登場人物が、職域に沿った働きで、「一役」を担って見せ場に相応しい活躍を見せていて。それぞれのファンであれば楽しみは倍増するでしょうし、勿論、この「ラストマイル」を、なんの予備知識無く見ても支障はございません。なんなら、本作を機に遡るのも良いかもしれません。特に「アンナチュラル」は、数多ある法医推理ものの中でも、傑出している事に未だ「揺るぎ」は、御座いません。

物流業最大商戦ブラックフライデー前日に、グローバルEC企業の関東配送センターから届いた荷物が爆発する事件が発生。警察当局から、配送センターへの捜査介入を受けつつも、もはや経済動脈同然となった物流の停止を阻止すべく、赴任したばかりの船渡エレナとチームマネージャーの梨本孔は、気心を通じる間もなしに原因解明にあたる。だが、最初の爆発は「序章」に過ぎず、巨大企業の効率を突き詰めた販売発送システムは、無差別テロを仕掛ける装置と化して、顧客への配達を負う配達業者の死活にも影を落とし始めるのだった。

前述した過去ドラマの出演者を始め、本作で描かれる事件に係る面々、その中には事前告知のなかった主役級の方も居て、演者のツブがひしめく中、適材適所に配置するうえに、2時間の枠に収めるべく、時間経過と共に事件概要と背景を露わになる様に巧みで効率的なミステリ構造となっている。新参出演者の中では、グローバル企業と提携する運送業者の「下請け」である、個人運送業に携わる事業主の火野正平さんと自身の失業を経て見習いで付きそう宇野祥平さんの親子が、安い請負料で過酷な労働条件を強いられる等社会問題を体現する一方、仕事への拘りや誇りも覗かせて、本作の「良心」部分を担っております。

それに対して、本作の「核」を担う船渡エレナに扮するのが満島ひかりさんで、相方的存在の梨本に岡田将生さん。朝ドラも見ているので、こっちと掛持ちかと混同しそうになる。立場的にも「受け」となるのが、岡田さんなのですが。指示を受け、出来事を享受する我々観客目線役割となるので、昨日までの部外者船渡エレナの行動に対しても若干の不信感も抱いているが為に、こちらのアテ推量や思い込みも引きずられてしまう。醸し出す「純朴さ」が、この社会派ミステリにあって、見る側の主観を導く起点となっている。

一人一人のクリックによって変換された購買欲のるつぼであるEC企業の勤務者でありながら、船渡は梨本に「あなたの欲しいものは」と、問いかける。集約されたシステムから多くの商品を細かく配送する企業にあって、注文の処理効率が揺るぎない「正しさ」として絶対的使命として掲げられているのだけれど。本来蔑ろに出来ないのは、倉庫から排出された商品が、顧客の手元に届くまでの道のり(ラストマイル)で。その責を負った結果、「欲求」を実現させるのが仕事と彼女は問うていたのか。

サスペンスを借りて巨大企業の「裏側」を垣間見せる、お仕事作品ではなく、24年問題と併行して働き改革が云われる現代の「お仕事」論も、映画オリジナルキャラクターを通して展開しているのだけど。いかんせん、サスペンスの展開が、タイトなもので、折角、達者な演者さんを揃えているのに、活かしきれなかった印象も。

本作用に、空いた巨大倉庫を見つけて、わざわざ配送センターの舞台を創ったのだとか。前半部分で、大勢の派遣社員が管理されて、作業効率を促すアナウンスも聴こえて。チャップリンの「モダンタイムス」で、世紀のコメディアンが、巨大な製造機の歯車に取り込まれ大量生産を揶揄してたけど。顔の見えない多くの人数を飲み込む配送センターが、血も通わない現代版として巨大倉庫に集約されたかのようで。その美術、大道具の仕事は意義深く、効果的とも思われますが。判明する事件背景を、あらためて思い出すと、あの巨大倉庫の中で働く人の様子が、もう少し見えたら、脚本の狙いが補強出来て、さらに深い感銘を残せたかも。シロウトが偉そうで、すいませんが。ともかく、もう少し味わうユトリが、個人的には欲しかった。

満島ひかりさん扮する船渡エレナは、米国の本社へ帰って「ノマドランド」に出て来た、フランシス・マクドーマンドさんを見つけて、「働く意義」の理論を更に深めたりしないかしら。まあ、そんな続編企画は、刺激が無さ過ぎて、ボツだろうけど。

拙文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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