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2021年11月07日23:32

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「劇場版 きのう何食べた?」を見て。〜レシピが取りもつ、それぞれの生活が重なって、今この時が、ある。〜

ドラマ映像化作品が、稼いだ視聴率で劇場動員を皮算用する「劇場版」の絶えない、相変わらずの邦画界。目利きの方なら、その多くを跨いでやり過ごされたりする訳ですが。予告から、銀幕へのステージ変更が、重荷なのがアリアリな「劇場版」が多いところ、これ見よがしな熱演の押し売りもなく、淡々と日々の暮らしを、特に「食事」にフォーカスして見せる本作は、俯瞰でみたら、「凪」に近い起伏のなさの中、楽観的とも捉えられそうな平穏な日々の描写に、誰にでも、「まっとう」な日常への期待とか、大げさに言うと祈りを、見出してしまう。

「劇場版」と銘打つ作品に、稀に、見落とせないものもあったりしますが、本作も、そんな「例外」に加えて頂ければなと。現在も、連載継続の青年誌連載の原作の持ち味に拠るところが、まず、ありますが。線画から、血肉で具現化した、熟練キャストの発想とそれを誘発したスタッフのアプローチのお陰で、映画として認知されうる作品に、結実しております。

西島秀俊さん扮する弁護士のシロさん(筧史朗)と内野聖陽さん扮する美容師のケンジ(矢吹賢二)は、都内の2LDKに住む、カップルである。ケンジの誕生日のプレゼントとして、シロさんは、京都旅行を企画する。それまで、二人揃って外に出る事に抵抗を抱いていたシロさんの、変わり様と自分の好みに応える旅行のお膳立てに、「嫌な予感」を抱くものの、そんな心配は、要らぬものと確認できたケンジは、趣ある京の宿で、普段味わう事のない夕食の膳を前に、天にも昇る喜びに浸るのだった。

そんな中、シロさんから、旅行前に実家へ帰省した折、梶芽衣子さん扮する母親から、今度の正月は、ケンジは連れて来ないで欲しいと言われた事を教えられる。なので、正月は実家に帰らないとシロさんは、自分の気持ちを推し量ってくれて、ケンジも気にしないそぶりを見せるのだが。情緒あふれる京都の秋の風景から、東京の春を満喫する日本人ならではの「お楽しみ」までの、約半年間にわたる、ケンジとシロさんの心境を、彼らを取り囲む人達との係わりを通して、キッチリ映画らしく、展開のメリハリ付けて、エピソードがまとめられている。

ごく普通の日常に起こる「悲喜こもごも」を、安心して見守れるのは、ドラマ開始以来カップルとして雰囲気を作り上げている主役二人に負うところが、大きい。去年見た「初恋」での、ゴッツイ如何にも昭和気質の武闘派ヤクザと別人の内野さんのケンジ。それこそ乙女のように、些細な事で動揺して。気遣いとかのきめ細かさに、シロさんの料理を口にした時の大切な人にしか見せない美味しい表情。演者って、役でこんなにも変わるのを、知らしめて頂きました。

そして、シロさんの西島さん。正直、このドラマ版を見るまで、うわべだけの人と見做してました。それが、感情の起伏の大きいケンジを受け止めて、演技のトーンとしては、抑えないとならないのですが。職場でも、ゲイであることをオープンにしているケンジに対して、シロさんは、職場で秘めていて。本作でも、実家の母親が、頭では判っていても、内面では息子の嗜好が受け入れられない事が、ケンジとシロの二人の間にも尾を引いたりして。外観からは、想像出来ない葛藤、苛立ちが伝わって、見直す切っ掛けになりました。そうなると、倹約して購入した食材で、ケンジの為に腕を振るう手つきに、レシピのナレーションですら、気を惹かれて来たりする。

苦労を共にした夫婦の落ち着きを感じるシロさんとケンジとは対照的に、落ち着かないのが、山本耕史さんの小日向と磯村優斗さんの航君ことジルベールのカップル。年下の航に、社会的成功者で、その筋のモテ男の小日向さんの振り回されブリが、また、主役二人とは違ったアクセントになっているし。

本作のウリの一つが、倹約に務めながら、厳選した食材を使ったシロさんのレシピで、参考にする人も多いと聴きますが。今回は、映画化のタイミングにも乗っかって、日頃ハイソな生活を送っている小日向さんから持ち込まれた高級食材を、シロさんの買い物仲間で、料理のヒントもくれる、田中美佐子さん扮する主婦の佳代子さん監修のレシピで、ちょっと、グレードの上がった料理もお目見え。我が国のドラマや映画の「消えもの係」、フードコーディネーターのお仕事の何と、素晴らしい事か。カンタンローストビーフや、鯛のアクアパッツァの美味そうなこと。この辺りの描写は、映画に鞍替えしても、テレビと変わらずに見せていて。間延びするとかの恐れよりも、見せるスタイルを貫いて。「劇場版」でも、これまでの映像作品のファンを手放さない演出に徹しています。

そんな劇中出て来るレシピの中、キーになるのは、春の訪れを前にシロさんが、母親から、あらためて聴きだした「肉団子」です。年明けを過ぎて、シロさんの誕生日で、ケンジと外食をした帰りに、里帰りの同行を断られたのを受けて、理解されない事に対して反旗を翻して二人が孤立するのも止む無しの意向が固まっていたのだけれど。理解しない人たちの考えも認めながら、自分たちは生きて行かねばならないと、「現状」認識を二人が共有したのを受けての、実家でのシロさんと母親が、肉団子を作る台所場面なのです。それぞれが、己の立場を、声高に主張して強引に納得させるのではなく、料理の作り方の伝授というテイで、互いの立場を尊重しているかに映る。

佳代子さん家族が、初孫を迎えての花見をしていて。その光景に出くわしたシロさんは、お裾分けの喜びに共感して。場所取りしていたケンジと合流し肉団子も詰めたお弁当を開いて、サクラを見上げる二人。海外作品の様に、愛し合う二人を実証するラブシーンが無いのが、また、受け入れ易い、この作品の良さなのですが。心から思う人と、季節を感じるひと時に、嗜好も超えた、生きる意味も垣間見えて。ほど良い余韻を残すのです。

限られた上映時間の範囲で、原作エピソードを、削がずに描かれている中、シロさんが手掛けるホームレスの刑事事件で、社会正義実現の大義が、けっして、被告本人に望ましい事ではないのを提示する。不利な立場を正すだけでは、解決されないのは、主役二人の立場にも、通じるものがある。

異性間の夫婦と変わらず、遺産相続とか、法的心配に囚われる事無く、花見の桜を二人して見上げた感動が、誰にでも末永く続くと良いのにと、問題提起をしている訳でもない、ごく日常の話に、つい思ってしまいました。

拙文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
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