かなり責めた創意と作風の作品。しかも、第一線のスターと評価のお墨付きを貰っている監督の「業界で地位ある」コンビによって巨額の予算が引き出されているので、低予算で志だけの吹けば倒れる掘っ建て小屋とは違う、基礎も強固で意匠と長年培われたパフォーマンスの技で魅了する様式で設えられた瀟洒な大邸宅にも例えられるので、上映時間の尺のつかの間、映像に委ねる価値は十二分に高い。
この作品以前まで、実年齢を疑わせる無茶なスタント挑戦と心持に一点の曇り無いキャラクターとして、全世界の観客を惹き付けて来たトム様が、数十年前に客演された戦争映画製作を通して業界風刺を見せる「トロピック・サンダー」で、如何にもその世界を牛耳っていそうな映画製作者を演じた時以来の肉襦袢着用かは判らないけど。久々の出来上がったイメージを裏切る強欲、傲慢が腹の突き出しに現れた肥満体型で、石油掘削業で全世界的企業のCEOに昇りつめたディガー・ロックウェルに扮する。
彼が所有する採掘場の地勢変動を発端とする大規模な厄災が欧州諸国に降り掛かろうかとして。対策を立てるべく,該当国の閣僚達面々が、肩を並べひしめき合いつつステージを取囲む様に聴取席の段が層を成して取囲む、まるで円形舞台かの会議場で、状況と対策説明を政府から任せられたディガーが、名演説家気取りで得意げに自身を正当化しスピーチに熱が入って。それに対してヒートアップして、中には胸ぐらを掴み合う取っ組み合いになっている聴取席の間に分け入りながら、喋りに興が乗ったディガーは演説を続けて、厳粛な対策会議の場を、騒乱に陥れるという長回しの見せ場があって。
それは、実在の場所でのロケではなく。そのシーン撮影の為に、構想を元にセットを設えたうえに、通しリハーサルを受け手を加えた末造りあげて。手間暇掛けてお膳立てされたステージ上で、身体を張ったスタントではなく、演技表現で長時間のワンシーン撮影で目を引き付けて。ドップに立つスタッフとキャストだからこそ完成度が高く、この辺りのチケット代に対する満足感では、海外メジャー作に勝るものはありません。
本作の表装的説明では、世界的壊滅危機に相対する実業家や政権役職者ら実権を握る者達の右往左往を描く風刺・不条理劇となっている。気候変動や地球環境が、グローバル企業と欧米はじめとする政治事情によって進む悪化の度合という、「今そこにある危機」をモチーフとして、実名は出さずとも起こっている情勢も取り込み皮肉やユーモアを効かせてエンタテインメントに昇華させる「風土」は、特に我国の商業映画市場では、受け手の体質もあいまって無いに等しく。
また、宗教的な背景の違いもあって。幾つかの描写で、「神様」に纏わる描写が、気に掛ったりもして。その一つは、採油場で起きた「異変」を、ディガーの大邸宅に、大統領ら主要閣僚を招いて状況開示の後、対策の検討するも具体的な手だてを立てずに、その隠密会議を閉じるにあたって、副大統領の体に参加者らが手を当てて「祈り」を捧げる件。
もう一つは、後半、海上に立てた採油場に追い込まれたディガーら家族や関係者の食料庫に残された食材がもう尽き欠けようかという処、彼が、か弱き者達に向けて「奇跡」を起こしたかの描写を見せる辺り。これは、過去に見て来た「神の教えと信じる人間」を暗に例えて来た作品に比べれば、決して判りにくいものではないのですが。
今や、理想を掲げ、意見の異なる者の意見に耳を傾けるよりも、都合の良い「事実」を挙げて、意見の違う者を区別排除したうえで利己の徳と保身だけを追及する世の中の「空気」と、それを先導する一握りの者達を名指しにはなっておらずとも、構成を練り上げて、セットや演技アンサンブルにコストを掛け磨き上げて提供できる土壌と気概は素晴らしい限りですし。安直に「神」を持ち出す、実権者達というのも、まず、彼らの「軽さ」を皮肉っての事であろう。
しかしながら、先にあげた「演説」や「報告」のやり取りで、気候変動や環境破壊について、我々が報道で耳にしている、氷山の融解からの崩落による海面水位の急激な上昇とか海洋への原油流出といったトピックスが、サラッと劇中で起こっている事象の「前段階」として、周知の事実扱いで飛ばされていて。それを目の当たりにした瞬間は、それこそ不都合な真実扱いで、「無視」を決め込んでいるものと認識しておったのですが。
その点に関して、ここで掘り下げてしまう訳には行かず。
見ている間、大統領役がジョン・グッドマンだなんて、全く気が付かなかった。あと、ディガーの親族役の女性は、「プロジェクト・ヘイルメアリー」のサンドラ・ヒューラーさんだったのも見終わって知って。成り上がりのディガーの熱を向こうに回し、冷めた感じが良い対比となって。暫く、こういう役回りか振られるのでしょうか。
キャストへの言及が蛇足的になりましたが、もう御一方に触れますれば。本作の出演者であるジェシー・プレモンスさんと云えば、今年の春の「ブゴニア」ですが。
あちらが、筋違いの陰謀論見立ての犯罪コメディかと思っていたら、ああいう静謐な結末に導かれて。「抜け出る目的地」は、本作も似通たものがあろうかと思います。「ブゴニア」のその道筋の辿り方で言うと、どこか、それは他人事のようにも冷めた目線も有ったりしますが。対して本作は、先に書いた「芝居がかった」見せ方もあって、見ているこちらもその空間に入り込んでいるような、没入感が絶えず備わる事になって。けっして、3Dとかの視覚効果でもなく、コンバートしたIMAXでもなく通常上映で充分得られます。
実際、劇場で見ていて。自分の席の並びに座った夫婦連れらしい方たちは、途中退席されてましたし。この前まで掛っていた、トム様のビッグネーム作品と違って、キャラクターからの判りやすさや、爽快さが無いのは、懸命の来日PRを以てしても拭いきれないところで、動員に繋がらないのが残念ですが。近年の映画流通の慣例で、いずれは、配信ポータルに出るでしょうけれど。先に書いた通り、本作の真価は、劇場で生活の邪魔を排除して見ない事には味わえないのは、間違いありません。
拙文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
シネプラザサントムーン シアター2にて
ログインしてコメントを確認・投稿する