本作を手掛けた大九監督の「勝手にふるえてろ」には、思いもしない事態に出くわした際の主人公ヨシカの名フレーズ「急! 人生って急!」があって。まさに、そうとしか言いようのない、天にも上る気分とその落差の両方が本作では体感される。
とはいえ、他人の不幸で高みの見物を決め込むような無神経な代物にあらず。誰もが思い当たる、数多の人がひしめいて、自身を保持するため殻を纏って閉ざしがちな生活の中、通じ合う事での歓びと無意識に引き起こされる中傷や誤解によるもので、フィクションほど劇的ではないにしろ、見る側の経験からの「苦さ」をリフレインしてしまうかも。
大学生の小西は、仲間とツルむことなく。校内も折りたたみ日傘をさして周囲から視界を遮り、講義も独り前の席に座り聴講していた。校内ただ一人の友人である山根と連れ立って学食で食事を取っていると、向かいの席で独り、お団子頭で背筋を伸ばしてざるそばを食する女子生徒の桜田花の凛とした姿が小西の眼に留まる。ある日、独自のルートで大講義室に小西が向かう途中で桜田と出くわし、彼女と部屋の後方に陣取って小声でのやり取りから「考え方」に共感できる事が多く、互いにムードの高まりを意識し始める。
校内やバイト帰りから帰宅を延ばして二人は、互いについて時間の経過も構わず話をする中で、桜田から「今日の空が一番好きって思いたい」と口をついて出て来た言葉は、小西の亡くなった祖母から聴かされていた事と一致して。いよいよ彼女を意識し、のぼせ始める小西なのだが。「いつも通り」を装って、銭湯掃除のアルバイトで一緒に働くさっちゃんに接していたつもりが、言葉の端から、彼が別の誰かに恋心を抱いている事を勘付かれてしまう。
去年、各メディア主催の映画賞で主演女優賞を席巻した河合優実さんが、桜田に扮して。受賞対象となった二作品では、片や境遇が悪すぎ、片や常識の枠を逸脱していて。共に、ささくれ立った雰囲気の中、作品世界を背負って立てる力量を示したけれど。本作は、ごく日常にあって、ちよっとエキセントリック掛かった「はみ出し感」が、珍しいお団子を載せたヘアスタイルも相まって現代っ子らしい可愛らしさを見せつけつつ、相手へと傾きつつある恋人未満の二人のムード醸成をリードして。本作の「転調」に差し掛かるまでは、去年の受賞作の息苦しさから解き放たれて、見ているこちらも、二人の放つ「明るさ」に照らされるかのように、ホンワカとした気持ちに浸る事が出来たのに。
映画での主演作ラッシュと併行して、去年地上波で放映された実在する続けに身内に起こる「辛さ」に直面するも遮二無二乗り越えた実在のエッセイストに河合さんが扮していたドラマ「家族だから愛したのではなくて、愛したのが家族だった」で監督を手掛けたのが、本作の大九監督でした。このドラマでもそうですし、冒頭にあげた「勝手にふるえてろ」や「私をくいとめて」でも、環境や、持って生まれた性分から、現実にあがない切れないが為に「想像」や「見立て」に走る主人公の主観が、今、正に起こっているかのように映像に入り込んで来て。時に物語の時制上の出来事なのか、はたまたウソなのか境界があいまいな事があって。
それが最大限、効果が発揮されていたのが「勝手にふるえてろ」で、それまで写されていたものがヒックリ返された時に、松岡茉優さん扮するヨシカの独りよがりな思い込みが露わになると共に抱え込んでいた孤独感も共感できて。本作でも、青天のへきれき的な展開を迎える訳ですが。(といっても、大九監督は、シャマラン監督みたいに大どんでん返しを発揮して、見る人を振り回したりはしません)TVドラマ並みには尺は無いとは言え、2時間超の上映時間の配分が、ちよっと行き届かなかったような。
ポスターの絵柄も、実際、本編を見ている途中まで、数少ない自分の「生涯、高まった有頂天の時季」を思い出させて、それこそイイ感じだったのに。コケティッシュな可愛らしさを振りまいていた河合さんの印象が、物凄く下落する事になって。最終的には、「補正」が掛って、桜田の人物像は回復するのですが。なかなかあの後で、取り戻すのは難しいにしても、小西クンには、女々しくとも彼女に一途なところを彼自身が表現してホンキを見せて欲しかったかなと。ドラマティックではあったけれど、好きな大九監督作で見せる、主人公主観が、本作では不発だった感じが残りました。
さっちゃんに扮した伊東蒼さんも、以前見た「さがす。」で、変人佐藤二朗を向こうに回して、異様な世界観の作品をけん引していた力量が、本作では更に磨きがかかっていて。夜中の住宅街の裏路地で、小西から距離を置いて、ヤツに気付いてもらえなかった想いの丈を独白する、数分間の独り芝居は、実際カメラに向かってソロプレイであるからして、ご自身の姿だけが画角を締める中、失意、告白による動揺や、悲しさを見せまいとする取り繕い等、多岐に渡る感情や表情を操る様には、魅入ってしまいました。素敵な女優さんの演技を堪能出来たので満足です。
拙文にお付き合い頂き、ありがとうございました。
シネマサンシャイン沼津 シネマ6
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